責任感が強く、スターでありながら下の人にも気配りを忘れないというのは、典型的スター像と言えますし、後輩に尊敬されていたことがよくわかります。しかし、私は「中居さんはいい人だった」というエピソードが流布されることで、被害者である女性への誹謗中傷が再燃する可能性があることを危惧するのです。「いい人だったのに、もう見られない。被害女性のせいだ」と暴走する人が絶対に出てこないとは言い切れないからです。もちろん、それらの発言を元に誹謗中傷をする人が悪いわけで、中居さんへの思いを語るタレント側に非はありません。
私たちは自分の目で見て物事を判断していると思っていますが、実は多くのバイアス(思い込み)を持っています。そのうちの一つが“権威バイアス”と呼ばれるもので、これは権威あるものを無条件に「正しい」と高評価してしまうことを指します。
具体例を挙げると、肩書や権威のある人の発言は100%正しいと思いこんでしまったり、人気芸能人が宣伝する商品を高く評価してしまうことを言うそうです。ですから、大スターである中居さんと、顔を出せない被害女性を比べると、明らかに女性のほうが分が悪いと言えるでしょう。女性に対し「たんまり示談金をもらったんだから、むしろトクした」と被害を矮小化して叩いている人もいますが、こういう人は「強い人に弱い自分」がいないか考えてみてほしいところです。なぜなら、一般的に性加害の多くは立場の強い人が弱い人にするもので、このバイアスの強さが性加害もしくは被害の遠因となる可能性があるからです。
「ウソをついたら、終わり」
#MeToo運動に見られるように性被害の問題を打ち明け、連帯することができるようになったのは、SNSのおかげです。その一方で、被害者をさらに追い詰める誹謗中傷がなされていることも事実です。
それでは、私たちはどうすべきなのか。その答えは、当時NMB48のメンバーだった渋谷凪咲さんの至言にあるような気がします。2021年9月11日放送「令和の正解リアクション」(TBS系)に出演した渋谷さんは「令和の時代にウソついたら、終わりです」とリアクションの極意を語っていました。これに尽きると思うのです。
正しいと胸を張って言えること、はっきりしないことをSNSに書かない。誰のウソも暴かれる時代ということを忘れてはいけません。多くの泣き寝入りを強いられたであろう女性のためにも、SNSは慎重に使いたいところです。
◇仁科友里/フリーライター。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ』(主婦と生活社)。