奈義町近くの写真館。子どもが増えているのを感じているという
人口5560人の町が選んだ道
奈義町は人口5560人、世帯数2438世帯の小さな町だ。周囲を山々に囲まれ、のどかな田園風景が広がる。この町も長年、人口減少の危機にさらされてきた。近隣で写真館を営む男性が語る。
「写真館を営んで49年になりますが、開業当初から人口減少を肌で感じていました。子どもが減れば、小学校の卒業アルバムを作ることもできなくなる。他の地域では、後継者不足や客の減少で店を畳んだ写真館もあります。数年前まで、この町も人口減少におびえていました」
そんな流れを変えるきっかけになったのが、2012年に町が打ち出した「子育て応援宣言」だ。奈義町情報企画課の井戸課長が語る。
「奈義町は2002年、全国的に進められた『平成の大合併』の流れの中で、住民投票を実施し、その結果、『他の地域と合併しない』という決断を下しました。しかし独立した町として生き残るためには、人口を維持しなければなりません。
子どもが生まれなければ、町は消滅してしまいます。スーパーも病院もなくなり、高齢者にとっても住みにくい場所になってしまう。だからこそ、町全体で子どもを育てる環境をつくろうと決めたのです」
その取り組みは徐々に効果を発揮し、いまや奈義町は国内で数少ない、高出生率を誇る自治体となった。前出の写真館店主はこう言って微笑んだ。
「2024年には、3つの幼稚園と保育園を統合した『なぎっ子こども園』ができました。通っている園児はなんと200人もいるんですよ。だから行事などでの撮影機会もたくさんあります。ここ数年は町の人口減少が止まり、横ばいになっている印象です。町の政策には本当に感謝しています」