米ペンシルベニア州フィラデルフィアのケンジントン地区は、薬物中毒者が集まることから「ゾンビタウン」「ゾンビ通り」などと呼ばれる(AFP=時事)
メキシコやカナダからアメリカ国内へ流入している「フェンタニル」だが、そもそも、原材料の大半は中国などから輸入されたものだと言われている。中国から直接、アメリカへ持ち込むよりも障壁が少なく、メキシコに存在する巨大な麻薬カルテルが中国から輸入した原料で製造し陸路でアメリカ国内に麻薬を持ち込んでいる、という指摘は何年も前からあった。だが実は、メキシコと接する南側国境だけでなく、行き来が比較的ゆるやかなカナダと接する北側からも麻薬の密輸が多かったことから、カナダとメキシコを名指しで今回の措置になったとみられる。
アメリカ国内ではこれまでも「中国産のフェンタニル」について多くの議論が交わされてきた。2024年4月には、中国側が国内のフェンタニル原料の製造事業者に補助金を出すなどしていたことも判明。その後、一転して規制強化に舵を切っているが、フェンタニルの米国流入は止まっていない。先の記者が続ける。
「現代版の『アヘン戦争』と呼ぶ人もいるほどです。19世紀に清とイギリスが戦ったアヘン戦争と違って、今回、中国はアヘンを売りつけられた被害者ではなく、アメリカに麻薬を売りつける加害者。法整備の穴をつき、メキシコやカナダなどの第三国を巻き込み、各国の信頼関係までぶち壊す、まさに麻薬の力でこれをやり遂げているのです」(民放米国支局記者)
アヘン戦争になぞらえて対中国の「フェンタニル戦争」と呼ぶ人もいる現在の事態に対し、なかなか有効な対抗手段がなかったが、トランプ大統領の強権により大きな転換が訪れる可能性も見えてきた。だが、悪い意味ではあるがニーズがこれほど高い薬物の製造は、なかなか止まるものではないだろう。そうなると、アメリカへ行くはずだったフェンタニルやその原料は他の国に流れていくだろうし、フェンタニルではなく代替的な麻薬が、新たに蔓延する懸念もあろう。
危険ドラッグも大麻グミも原料は中国由来だった
ここまでアメリカの薬物、とくにフェンタニル中毒の事情について述べてきた。そもそも日本より薬品への規制がゆるやかで、薬物中毒がまん延している度合いが違いすぎるから、日本で暮らすぶんには縁遠い話だと思うかもしれない。だが、実は身近な問題だと我々は知っておかなくてはならない。
十数年前に日本国内で流行し、乱用者自身が死亡するだけでなく、彼らが引き起こす事故が続出したことでも知られる「危険ドラッグ」のことを思い返してほしい。危険ドラッグを追って取材すると、使われていた原料は、ことごとく中国から輸入されていたものだった。2024年に摂取した人が救急搬送されるなどして問題になった「大麻グミ」の陶酔成分についても、複数の製造者や販売店に確認をしたところ、そのすべてが「中国」、もしくは東南アジア等の第三国を経由した「中国」から輸出されたものだったことも、筆者の取材で明らかになっている。