北大阪急行電鉄路線図

北大阪急行電鉄路線図

日本で最も安く乗れる電車(北大阪急行)

 大阪には100円で乗ることができる電車がある(2024年時点)。

 大阪府北部を走る北大阪急行電鉄だ。箕面萱野(大阪府箕面市)-江坂(同吹田市)の8.4キロを結ぶ中小私鉄で、2024(令和6)年3月に千里中央(同豊中市)から北に2.5キロ延伸した。延伸しても千里中央‐江坂間では隣の駅までの運賃は100円に据え置かれており、破格の安さを誇る。

 北大阪急行は地下鉄御堂筋線と相互直通運転をしているが、集電は第三軌条方式で、地下鉄と同様に各駅停車のみの運転ということもあってか、相互直通運転という印象が薄い。

 北大阪急行の利用客も「北大阪急行を使っている」という人より「御堂筋線を使っている」と話す人の方が圧倒的に多い。

「御堂筋線のようで御堂筋線でない」「相互直通運転なのに相互直通運転に見えない」という不思議な路線だ。

 北大阪急行電鉄株式会社の出資比率は阪急が54%、大阪府が25%で、阪急の完全子会社だ。1970(昭和45)年2月に開業したことから分かるように、大阪万博のアクセス路線としてつくられた。

 1日あたり数十万人の観客を輸送するためには、会場と中心部を直結する鉄道線が不可欠だった。万国博組織委員会と大阪府は、当時、新大阪が終着点だった御堂筋線をさらに北へ延ばしてアクセス路線にするのが最も合理的だと考えた。地下鉄を運営する大阪市と、大阪北部に路線網を持つ阪急に共同での延伸を持ち掛けた。

 しかし、大阪市も阪急もこの延伸計画には乗り気でなかった。

・建設費が膨大になる。
・沿線人口が少なく、万博が終わったら赤字路線になる。
・混雑でパンク寸前の御堂筋線が、本当にパンクしてしまう。

 本音はこんなところだった。

 大阪市交通局は「地下鉄は大阪市営だから、大阪市外での建設はできない。大阪市民の税金を使って大阪市外の住民の利便を図るわけにはいかない」との理由を盾に拒んだ。大阪市域を出たところから万博会場までは然るべき民間会社による敷設が必要だとした。

 一方、阪急は千里線に「万国博西口」駅を設けて、アクセス路線にする準備を進めていた。「新たな2本目のアクセス線に関わって負担を増やしたくない」との思惑もあった。

「御堂筋線の終着駅の江坂駅からシャトル便のバスを運行すればそれで十分だ」という意見が出てきたこともあった(もし本当にそんなことをしていたらバスは数千台が必要になったと推測されている)。

 結局、阪急が子会社をつくって建設することになった。「万博を成功させるため」との大義名分が阪急を動かしたわけだが、どれだけ莫大な赤字を生み出しても自社だけで損失を被ることがないように、大阪府と大阪市をしっかり抱き込んだのはさすが阪急だといわれた。

 ところが大阪万博は、予想を倍以上も上回る6400万人の入場者を記録した。1日当たりの平均入場者は35万人に上り、その7割近くを北大阪急行・地下鉄御堂筋線が輸送した。

 おかげで建設費の償却が、半年間の観客輸送で完了してしまった。

 また万博を契機に千里ニュータウンの開発が一気に加速し、沿線人口が急増した。赤字を心配するどころか、混雑対策に頭を悩ませることになる。これほどの“幸せな誤算”はなかった。

 徹底したコスト削減などの企業努力もあって、運賃はずっと安く抑えられ、いつしか「大阪で一番安く乗れる電車」を経て「日本で一番安く乗れる電車」になってしまった。

 北大阪急行は2016(平成28)年、隣駅までの運賃90円を100円に値上げした。値段だけを見ると、若桜鉄道(鳥取県)の最安区間・八頭高校前‐郡家間と並んだ。しかし、近畿圏や首都圏など都市部の大量輸送機関では圧倒的な安さを誇っている。

 五大私鉄の派手な競争ばかりを見ていると、「やっぱり関西の電鉄会社がやることはえげつないことばっかりや」と思われがちだが、初乗り100円で頑張っているけなげな電鉄会社があることもぜひ心に留めておいていただきたい。

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