日本で最も運賃が高いと噂の電車
日本一運賃が安い電車が大阪にあれば、日本一運賃が高い電車も大阪にあると騒がれたことがある。
大阪府南部の泉北ニュータウンを走る泉北高速鉄道(中百舌鳥‐和泉中央)だ。
大阪市南部と泉北ニュータウンを直接結ぶ路線として、南海が建設を計画していた。しかし、資金面の問題から大阪府の第三セクターが建設・経営し、南海に業務を委託するという形で1971(昭和46)年に開業した。2014(平成26)年には南海に株式が譲渡され、南海グループの一員となった。
泉北高速は開業以来、南海高野線と相互直通運転している。
隣駅までの運賃は180~220円で、阪神の160円、阪急の170円と比べたら高めだが、大阪モノレールの200円、大阪メトロの190円と比べるとほぼ同一レベルだ。
相互直通運転をしているので両社路線をまたいで乗車するときは割高になる。難波‐中百舌鳥間は350円だが、泉北高速線に入って初めての駅となる深井までは450円で一気に100円上がる。
相互直通運転している路線では、両方の鉄道会社の運賃を合算したうえで乗り継ぎ割引を適用して、急激に高くなることを抑えている路線が多い。泉北高速鉄道の運賃は対キロ区間制を使っており、ほかの私鉄路線と運賃体系は同じで、泉北高速鉄道だけが特別に高いというわけではない。
にもかかわらず、なぜ「泉北高速は日本で一番高い」などという噂がまことしやかに流れたのだろう。ネットではこんな理由が挙げられている。
「南海の子会社になったのに運賃体系が以前と同じだから」
「定期券の割引率が低いうえに、定期券には南海との乗り継ぎ割引がないから」
こんな説もある。
泉北高速はほかの私鉄と比べると、駅と駅の間の距離が長い。私鉄の駅間距離は普通は1~2キロ程度だが、泉北高速は平均2.9キロもある。
14.3キロに駅は6つで、駅の数では通常の私鉄線の半分以下だ。
南海高野線から分かれて泉北高速線に入った途端に、乗車感覚と運賃が急に合わなくなり、「運賃が高い」という錯覚に陥ったのではないかというのだ。
どれも日本一高い運賃の根拠になっていない。それではなぜそんな噂が広がったのか。
ニュータウンは完成とともに、一気に大勢の人が引っ越してくる。引っ越してきた途端に、通勤や通学で泉北高速を利用する人は相互直通運転で割高感のある運賃を支払わされた。
「ここの電車賃、えらい高いのと違うやろか」
そんな会話が新住民たちの間で交わされ、「日本一高い」という噂があっという間に広まったのかもしれない。
(了。第1回を読む)
『関西人はなぜ「○○電車」というのか─関西鉄道百年史─』(淡交社)