年末恒例行事の餅つきに参加した特定抗争指定暴力団山口組の篠田建市(通称・司忍)組長(中央)ら。2024年12月28日、愛知県瀬戸市(時事通信フォト)
代紋は捨てられないので取っておく
掟やルールに厳格なヤクザ組織のこと、下手を打てば指を取られ、命まで危うくなるだけに、本部組織が決められた同一規格のもとに作成したバッジを傘下組織が購入し、名刺などで使用する代紋もガイドラインで徹底管理されていると考えていたのだが…。
「バッジは傘下の組がそれぞれで作るから、形も大きさもまちまちだ」とA氏が言うのだ。組織のシンボルとなる代紋にきっちりとした規格やガイドラインがないというのは驚きだった。
「バッジや名刺は自前で作る。組で使用してきた代紋で型を取ったり、直参組織が持つ代紋を基にする。本部から提供された素材についている代紋から作る者もいる。組によってバッジ制作を頼む所が違うので、出来上がりが微妙に違ってくる」という。関西で”ヤクザ御用達”のような業者に頼むのと、地方の業者が初めてバッジを作るのとでは差が出るらしい。「山菱の山という文字の幅が太くなったり、細くなっていたり。山の字の中の空白部分もが広いものもあれば、狭いものもある」とA氏がいうように、オリジナルの比率やスペースが確保されていないという。
直参で執行部入りした者が付けられるチェーン付きプラチナバッジのチェーンも同じで「幅が太いのもあれば、細いのもある、鎖の長さも決まっていない。山建組の中田浩司組長のように急に若頭補佐に昇格、執行部入りとなれば、急遽用意しなければならないから、細かな違いは気にしない」(A氏)
直参の組をはじめ傘下組織の代紋には、山菱の中に己の組名を入れているものもある。長く山口組に所属してきた組員の中には、組の吸収合併や移籍で、属してきた組の代紋をいくつか持っている者もいる。A氏もその1人だが「代紋は捨てられないので取っておく。同じ箱で保管していたので、前にいた組のバッジと間違えて付けていったことがある」という。
そんなことが許されるのかと思うがA氏は「誰も気がつかない。バッジの中の字なんて小さすぎて、誰も読めないんだよ」と苦笑いした。掟と序列に厳しいヤクザ組織にも、緩いところがあるようだ。