水原被告が騒動前まで住んでいるとされる高級住宅地「ニューポートビーチ」
「それは言い訳にならない」
再び英政を訪ねたのは、ドジャースがワールドシリーズを制覇した翌日の夜だった。
あの光景がまだ目に焼きついて離れない。決戦の日、広大なドジャースタジアムは、眩いほどのライトが夜空に照り輝いていた。場内アナウンスで「ショーヘイ・オータニ!」と呼ばれると、割れんばかりの歓声が沸き上がる。光り輝く看板のネオン、胸に響く大音量のBGM、熱狂するファンたち……。スタジアムの外からでも、その迫力と熱気と、そして人々の鼓動が伝わってきた。
そんな煌びやかな決戦の裏で、英政は居酒屋のカウンターに立ち、直向きに仕事をしていた。
勤務を終えた英政は、車の運転席に乗り込んだ。窓ガラス越しに話しかけると、窓が開いた。
私は、今回の賭博騒動については、水原だけに全責任が押し付けられているのではないかと問題提起した。
水原は21年、遠征先のサンディエゴの宿泊ホテルで行なわれたポーカーゲームで、スポーツ賭博を違法に運営する胴元、マシュー・ボウヤー被告(違法賭博業の罪で審理中)と出会った。
それ以来、スポーツ賭博に手を出し、1日平均25回、3年間でトータル約1万9000回賭けた。違法な胴元は賭け金を合法な業者よりつり上げることが可能で、水原はその罠にハマった。そうして借金が雪だるま式に増えてしまったのだ。
その返済のために水原は大谷の口座の資金に手を出した。水原だけが悪者扱いされているが、事実、胴元のボウヤーは後に、ニューヨークポスト(2月3日付)のインタビュー記事で、今回の騒動全体における“水原の共犯者”だったことを認めている。
水原だけが責任を問われるべきなのか。そんな問いを投げかけると、英政はこう静かに言った。
「でも最初に(ギャンブルを)やったのは一平でしょ。自分からやったんじゃないの? 俺はわからんけど。それに違法な元締めっていうけど、(大谷の)お金を使ったのは一平でしょ? それは言い訳にならないよ。なんだって人の金だから」
英政は、息子の非を素直に認めている。一方で、水原の経歴を今回のトラブルに結びつけるような報道には違和感があるようだ——第3回記事では、水原家が画策していた「大阪IR計画」と、英政が訴えた“翔平への疑義”について詳報する。
(第3回につづく)
【プロフィール】
水谷竹秀(みずたに・たけひで):ノンフィクションライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、「日本を捨てた男たち」で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。最新刊は『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。2022年3月下旬から2か月弱、ウクライナに滞在していた。
※週刊ポスト2025年2月28日・3月7日号