岸信千世氏が政治資金を“無税相続”のカラクリ
この緑晋会の報告書を辿っていこう。
自民党幹事長や外相などを歴任した晋太郎氏は38の政治団体を持ち、自身が死去する91年までの10年間にそうした政治団体に個人資産6億3800万円を寄附した。晋三氏が引き継いだ緑晋会などの政治団体には、初当選した1993年時点で合わせて「預金6億8948万円」(朝日新聞84年9月9日付)もの資金があった。
父が寄附した「個人資産」が非課税でそっくり息子の政治資金として残された計算になる。そのうち約5億円が緑晋会の預金だった。
その資金が東京政経研究会にプールされ、安倍氏の死後、またも非課税の政治資金として甥の信千世氏に継承された。いわば3代にわたる“非課税相続”である。
当然ながら、一般国民が数億円単位の「個人資産」を相続すれば、子はもちろんのこと、孫の代まで巨額の相続税が発生しかねないが、政治団体を通せば無税になるという特権である。
「しかも、政治資金の相続によって世襲候補はライバル候補より資金的に優位に立ち、また世襲議員が量産される。公平な政治を行なうには、政治資金の相続に課税したり、禁止することは必要な措置でしょう」(上脇氏)
伯父が率いた旧安倍派に所属した信千世氏は、昨年10月の総選挙で派閥裏金問題と世襲批判にさらされて大苦戦、次点と僅差で当選した。
地元取材で岸家の支援者がこう振り返った。
「本当に厳しい選挙でした。初当選した補選では家系図まで出した世襲アピールが叩かれたから、一切出さないようにした。そうすると、信千世君にはアピールするところがない。東京育ちで地元に地縁がありませんからね。当選できたのは父の信夫さんの代から支えている事務所の秘書やスタッフの力です」