事務所側は選挙資金の原資とした点を否定

 その選挙でものを言ったのが安倍氏からの相続資金ではなかったか。

 信千世氏の政治団体の資金の出入りを見ると、政党支部(自民党山口県第二選挙区支部)も誠信会も毎年の繰越金は数百万円程度で、政治団体としては資金繰りに苦労していたことが窺える。そこに安倍氏の政治資金2000万円の“遺産分配”を2023年5月に受けた。

 この2000万円の寄附を受けた後、2023年6月から12月にかけて誠信会から合計1700万円を政党支部に移している。

 さらに選挙運動費用収支報告書によると、信千世氏は2024年10月の総選挙の際に政党支部から1500万円を自分に寄附し、選挙費用を賄った。2024年に誠信会が東京政経研究会から寄附を受けた残りの約1700万円がどう使われたかはまだ24年分の政治資金収支報告書が公表されていないため追跡できないが、安倍氏の政治資金の一部が支部を経由して信千世氏本人に1500万円が渡り、信千世氏は非課税で相続した“安倍家の遺産”でなんとか当選できたという構図ではないのか。

 こうした安倍家からの政治資金の相続問題を信千世氏にぶつけたところ、事務所は以下のように回答した。

「法令に従い、多くの皆様から様々な政治資金をいただき、各政治団体の経費に充てており、岸個人の所得ではありません。貴誌の税金逃れとの見解は法令を誤解しています。なお、昨年総選挙の際、政党支部から受けた寄附は党本部からの政党助成金が原資であり、東京政経研究会からの寄附を原資とはしていません」

 選挙資金の原資とした点を否定したが、国民からすれば支部のどの口座からの支出かという内部的な経理処理の話に過ぎない。

 こうした回答こそが、税や保険料の負担増に苦しむ国民の痛みがわからない世襲政治家であることの何よりの証左ではないか。

(前編から読む)

※週刊ポスト2025年3月14日号

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