フィリピン・マニラ近郊にあるビクタン収容所
SNSの「闇バイト」投稿によって集められた実行役らが指示役とつながり日本各地で犯行を重ねる「広域強盗」。「テレグラム」や「シグナル」など、秘匿性の高い通信アプリを用いて指示がなされることも影響し、捜査機関が指示役にたどり着くのは困難だとされる。現に昨年各地で発生した広域強盗では、一部の事件において指示役が「織田信長」などのアカウント名を用いていることまでは突き止められたものの、逮捕には至っていない。
しかし、2023年1月に東京都狛江市で発生した強盗致死事件では、「闇バイト」志願者らに指示を送っていた指示役らが逮捕された。彼らは「テレグラム」で「ルフィ」「キム」といったアカウント名を用い、フィリピンのビクタン収容所から日本で集められた実行役に強盗を指示していたとされるが、いまだ公判の目処は立っていない。
こういった「広域強盗」では「指示役」と「実行役」のほか、車などを調達する「サポート役」なども存在し、分業体制が敷かれる。分業だからといって刑が軽いわけではない。狛江市の事件で実行役を務めた4人に対しては一審・東京地裁立川支部で、ひとりを除いた3人に無期懲役という厳しい判決が言い渡されている。
こうした性格の事件において実行役は従属的な立場であるため、指示役に脅されることもある。脅されている証拠がなくとも「指示役に脅された」と主張することもある。ところが、狛江市の事件を含む6事件に実行役リーダーとして関与した永田陸人被告(23)は「指示を聞いて自分で判断して、自分でやったこと。全ての責任は私にあります」と法廷で語った。他の実行役の裁判に証人として出廷した際は「彼は懲役刑に値するようなことはしていない」と庇う姿勢を見せた。
現場のリーダーとして他の実行役を統率し、凶悪事件を次々と実行。逮捕当時、移送をとらえるテレビカメラに向かい、笑顔で中指を立てる様子が広く報じられた永田被告は、のちに何を思い、この現在地に至ったのか。昨年行なわれた裁判員裁判を振り返る。【前後編の前編】
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「ルフィ」らを指示役とする広域強盗のうち2022年11月から2023年1月までに発生した6件に実行役として関わったとして強盗致死などの罪で問われていた永田被告に対する裁判員裁判は昨年10月から東京地裁立川支部(菅原暁裁判長)で開かれ、同年11月7日、求刑通りの無期懲役が言い渡されている。
昨年10月の初公判罪状認否で「起訴状について間違いはありませんか……」と裁判長に尋ねられた永田被告は、食い気味に「ありません」ときっぱり答えた。短く刈られた坊主頭にグレーのスウェット上下という風貌は逮捕当時の映像と大きく違いはないが、当時カメラに向かって見せていた笑顔はない。