こうして心強いバディを得たみちるは、スミのアパートの一室で何が起き、誰と誰がどんな思いで暮らしていたか、衝撃の真相に一歩ずつ近づいていくのだ。
「舞台を北九州にしたのはたまたまですが、この土地に根付いた古い考え方や、あとはストリップのことも、結果的には書けてよかった。あの性別を越えた人間そのものの美しさが描けた時に、この『月とアマリリス』が井口やいろんな人の痛みや哀しみを抱きとめうる作品になった気がします」
みちる自身、記者になることを両親から猛反対され、〈お前は、女なんよ〉と言われて育った。その親心に理解も反発もし、〈心配とか応援とかって言葉を使えば、誰であってもひとの人生に踏み込んでいいのかな〉と井口にこぼす彼女の揺れ。また、支配や依存といった日常的な権力構造が事件の背景と密接に重なっていく点は、見事という他ない。
「私も中学時代にみちるを苛めていた〈吉永遥〉と同じく、女は結婚するまで家を出たらいかん、学問も要らんと言われた人間で、〈女の低さ〉は今でも肌で感じる。そういう善かれで根付いた文化が生む悲劇も当然あるでしょうしね」
その吉永や同級生たちを交えた小学生時代の〈アマリリス会〉の思い出など、事件が悲惨であればあるほど一つ一つの挿話が美しく、愛や信頼についても繰り返し問い続ける著者の姿勢が印象的だ。
「依存は愛とは全然違うし、信じるってエグイよねっていう感覚をどう書けば伝わるのかを、常に考えているところは確かにありますね。
このタイトルはちょうどこの作品を書き始めた頃に、外から子供達のリコーダーの音がして、アマリリスの花言葉は『おしゃべり』だし、ぴったりだなと思ったんです。どこまでが愛でどこからが支配かは本当に難しいけれど、人は結局、人と喋ったり支え合ったりしながら生きていくしかないので」
それはどんなに絶望的な状況でも誰かと繋がろうとした人々の事件とも言え、DVやLGBTQといった用語では掬い取れるはずもない物語を掬い取ることに、やはり町田作品の真価はある。
【プロフィール】
町田そのこ(まちだ・そのこ)/1980年福岡県生まれ。現在も福岡在住。2016年「カメルーンの青い魚」で第15回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞し、翌2017年に同作を含む短編集『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』で単行本デビュー。2021年に第18回本屋大賞を受賞した『52ヘルツのクジラたち』の他、『星を掬う』『あなたはここにいなくとも』『宙ごはん』『夜明けのはざま』『わたしの知る花』「コンビニ兄弟」シリーズ等々、ヒット作・話題作多数。154cm、B型。
構成/橋本紀子
※週刊ポスト2025年3月14日号