前代未聞の公開大げんかをしたゼレンスキー氏とトランプ氏(時事通信フォト)
ゼレンスキー氏の視線には彼の心の内が透けて見えることが多かった。ウクライナに多額の軍事支援をしたバイデン前大統領をトランプ氏が非難した時には、トランプ氏の方を向いていたのに視線を外して前を向いた。トランプ氏もゼレンスキー氏がプーチン氏を非難すると視線を落とした。そんな仕草から互いにいらだちは感じ取っていただろう。それでもほめ合い、冗談を言うなど、会談は和やかそうに進んでいった。開始から40分後、バンス副大統領が口を挟むまでは。
「平和と繁栄の道は外交にあるのかもしれない。アメリカを偉大な国にするのは、アメリカが外交を行うことだ。それこそがまさにトランプ氏が行っていることだ」
ゼレンスキー氏はこの発言を聞きながらバンス氏の方を向くと、額にシワを寄せて眉を上げ不快感を露わにした。そして組んでいた指を動かし、尻を左右に動かしバンス氏を伺うように見た。だが”外交”という言葉で前を向く。そして「聞いてもいいですか」とバンス氏に対して手を出した。「J・D(バンス氏)、あなたが言う外交とはいったいどういう意味ですか」。
「私が言っている外交とは、あなたの国が破壊されるのをとめることだ」というバンス氏の返事を聞いた瞬間、ゼレンスキー氏は上を向き、両腕を脇の下にしっかりと差し込んでしまった。親指も一緒に差し込まれてしまった腕組みには、冷静さやコントロール感より、相手への警戒、拒絶、不満、相手の主張を尊重するつもりがないことなどが読み取れる。バンス氏とのやり取りの間中、ゼレンスキー氏の腕は組まれたままだった。
ここから口論はエスカレート。ゼレンスキー氏が「戦時にはすべての国が問題を抱える。米国もだ。素晴らしい海があり、今はわからないかもしれないが将来感じることになる。神のご加護を、米国に戦争が起きませんように」というと、トランプ氏は目を大きく開け不快感を露わに「あなたは我々に指図する立場にない」と強い口調で反論。腕組みをほどいたゼレンスキー氏に「あなたは今、あまりよい立場にない」「非常に不利な立場に陥った」と警告。ここでゼレンスキー氏が態度を変えれば、まだ交渉の余地はあったのかもしれない。
3月4日、トランプ大統領が行った施政方針演説は歴代大統領で最長の1時間40分だった(EPA=時事)
だがここでバンス氏が「あなたは一度でも”ありがとう”を言ったか」と、交渉のための会談を感情論に持っていってしまう。こうなってしまえばゼレンスキー氏も後に引けなくなったのだろう。手を前に振りかざし、胸に手を当てて自分や自国の立場を強調し、前のめりになって意見を言おうとするが、トランプ氏もバンス氏もゼレンスキー氏に指をさし、手を広げて発言を阻止。トランプ氏は発言しようとするゼレンスキー氏の肩を押して止める場面さえあった。会談後、ゼレンスキー氏を非難し続けるトランプ氏に、ゼレンスキー氏は感謝の意をSNSに投稿し続けた。3月4日、ウクライナへの全ての軍事支援を一時停止したと米メディアが報じたが、トランプ大統領は施政方針演説で、「ゼレンスキー大統領から重要な書簡を受け取った」「彼がこの手紙を送ってくれたことに感謝する」との述べ、交渉が仕切り直しされる可能性を示唆した
約10分に及んだバトルについて、様々なメディアや専門家たちが分析。お互いの立場や主張の違いなど示唆されているが、ゼレンスキー大統領が母国語ではない英語で、しかも通訳を使わずに会談したことが、一番の要因だったと思う。もしゼレンスキー氏が母国語とするウクライナ語で通訳を通して会談していたら、一呼吸おくことができ、ヒートアップすることなくもっと落ち着いた仕草をみせ、ホワイトハウスで腕組みをすることはなかったのではないだろうか。