炎上中の東洋水産「赤いきつね」」のWEB CM(マルちゃん公式YouTubeチャンネルより)
「ジェンダー平等」が叫ばれるようになり、ジェンダーに関する意識は時代とともに高まっているように見える。しかし、本当にそうだろうか──。50年前、批判を受け放送中止となったインスタント麺のCM、そして現在炎上中のカップ麺のCMについて作家の甘糟りり子さんが問題提起する。
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3月8日は国際女性デーである。「女性の地位向上、女性差別の払拭のために国際的な連帯を取り、行動するための日」だ。この日が少しずつ浸透してきたおかげで、ジェンダーについて考える機会も増えたと思う。
赤い服を着た女性が「作る人」
私が生まれて初めて「社会的な性差」(=ジェンダー)に触れた日のことを書いておきたい。時代は昭和の半ば。インスタントラーメンのCMだった。画面には赤いストライプのシャツを着た女性、同じく赤いストライプのシャツを着た幼い女の子が映し出される。二人の前にはラーメンが入った丼があり、自分たちを指さして「私作る人」という。画面はブルーのパーカー(今でいうところのフーディー)を着た男性一人になり、彼は自分を指さし「僕食べる人」という。家族という設定なのか、最後は仲良く三人でラーメンを食べる、というもの。
何がなんだかわからないまま、とにかくびっくりした。当時私は小学生で、もちろん「ジェンダー」なんて概念はないし、言葉も知らなかった。その頃、母は専業主婦で父は会社員だったから、日々の食事は母が作り、私はそれを当然のように受け止めていた。にもかかわらず、赤い服を着た女性たちが「作る人」、ブルーの服を着た男性が「食べる人」と宣言したことに衝撃を受けた。じゃあ私も「作る人」ならなくてはならないの? と思った。
母の料理の手伝いをするのは好きだった。作ることが嫌なわけではなく、知らない間にそう決まっていることが子供心をざわつかせたのだ。
赤い服に関しては、もっと具体的に拒否反応があった。
おしゃれに目覚め始めた私は、チョコレート色のスウェーターにチョコレート色のミニスカートを履き、靴下もショートブーツもチョコレート色というファッションで学校に行き、級友の男子生徒から「甘糟、全身うんこ色じゃん」とからかわれたりしていた。シックというスタイルをめざしていた私とって、赤い服を強制されることは恐怖だった。
大人になってから、あのCMが「行動を起こす女たちの会」から例のセリフが「男女の役割分担を固定化する」として抗議を受け、二ヶ月で放送を中止したと知った。日本でジェンダーについての論争を呼んだ初めてのCMだそうだ。1975年のことだった。