『酒場とコロナ あのとき酒場に何が起きたのか』/本の雑誌社/2200円
【著者インタビュー】大竹聡さん/『酒場とコロナ あのとき酒場に何が起きたのか』/本の雑誌社/2200円
【本の内容】
世界中で猛威を振るった新型コロナウイルスは私たちの命を脅かし、日常は一変した。やり玉に挙がったのが酒場だ。本書の冒頭「コロナに翻弄された酒場を追いかけて」で著者はこう綴る。《酒場の主人の哀しい心情も、酒場を愛する人たちの、みんなに会いたいという切望も、何度も見たり聞いたりした》。取り上げられたお店はどこも名店揃い。わざわざ足を運びたくなる、東京と横浜の居酒屋ガイドブックの役割も果たしている。
「どこかの雑誌がやるべきだ」とわあわあ言ったら…
新型コロナウイルスの感染が始まって5年になる。当初、不要不急の外出を控えろというのでやり玉に挙がったのが酒場で、検証もないまま、休業を要請されたり酒類の提供を制限されたりした。
酒場のあるじたちは、その間、何を考え、どう過ごしていたのか。これまで数々の酒場を訪ね歩いてきた大竹聡さんが、酒を出せなくなった酒場を訪ね、働く人たちの胸のうちを聞く本である。
取材に取りかかったのが4度目の緊急事態宣言中の2021年夏で、冬までに21軒を訪ね、雑誌『dancyu』のウェブサイトで連載した。
「コロナが広がった初めのころの夜の銀座や新宿は廃墟みたいでした。ぼく個人としても、気楽に飲みに行けなくなったのは非常に気持ちのふさぐことで、『オリンピックなんかやってる場合か』という気持ちでした。
そんなとき、たまたま遊びに来てくれた『dancyu』の編集者に、『いま酒場はどうしているんだ』っていうのをどこかの雑誌がやるべきだ、『dancyu』がやらなくてどうすんだよって、ホッピー飲みながらわあわあ言ったんです。彼が編集長に話して『すぐやろう』ってことで始まった連載です」(大竹聡さん、以下「」内同)
本は2部構成。ウェブ連載を収めた第1部「酒を出せない酒場たち」で取り上げた21軒は、東京や横浜の、大竹さんや担当編集者が長年通う、なじみの店である。
この先がどうなるかわからない時期に、これほど率直な話を引き出すことができたのは、長いつきあいがあってこそだろう。
「彼らも相当な心配を胸に抱えてたと思うんですけど、休業中もいつもと同じ時間に出勤して、『店に風を入れて、掃除して、CDを2枚くらい聞いて本を読んで、それだけで帰る日もありますよ』(「サンルーカル・バー」の新橋清さん)みたいな話を最初の何軒か聞いて、ちょっとグッときましてね。これは、いま話を聞いておくべきことなんだろうと思いました」
創業115年になる神田の居酒屋「みますや」の岡田かおりさんによれば、こんなに長く店を閉めるのは、戦争で提供する物資がなくなって以来初めてだという。
「こんなことは、これまでの日本で経験したことがないことなんだ」と改めて思ったそうだ。
ウェブに連載した後、いずれ1冊にまとめたいとは思ったが、そのいずれをいつにすればいいのかがなかなか決められなかった。
「2022年になってもなかなかコロナが収まらず、2023年7月になるとゼロゼロ融資(注・コロナ禍で売り上げが減少した個人事業主などを対象にした実質無利子・無担保融資)の返済が始まったので、その話も追加で聞かないといけなくなって。今回、話を伺ったのは堅実経営のところばかりでしたけど、これを機に廃業した飲食店もあったと聞いています」
2023年の飲食店の倒産件数は前年の7割増、業態別では居酒屋が最多だった。
第2部を書くために2023年に追加取材をし、新たに焼きとんチェーン店の社長にも取材したが、なかなか整理しきれず、書きあぐねた。
「自分が見てきたことを正確に書くには少し後から振り返る視点が大事だと思ったんですけど、まだ終わってない、という思いもあって、ズルズル時間がかかっちゃいましたね」
店主たちの率直な言葉を生かすために、なるべく自分自身の言葉は加えずに、彼らの発言を際立たせて書くことを心がけた。