玉串を受け取るときに触った、触っていないの騒動に(写真/イメージマート)
まさかこの手のやり口を神主相手にやるとは
「オレたちヤクザでも考えつかないような手で金を取った」と組員が口にしたのは、有名な神社の神主を脅した話だった。「某神社にお参りした時のことだ。せっかく来たのだから、ご祈祷をお願いしようと姐さんが言い出した」(組員)。神社でご祈祷をお願いすると玉串拝礼が行われる。これは神様に玉串という榊などの枝に紙垂(しで)といわれる紙や麻を取り付け、捧げて拝礼するものだ。作法としては、神前で神主から玉串を受取り、それを持って神前に一礼し、祈りをこめて神前にお供えし、二拝二拍手一拝する。
厳かに神前に進んだ姐さんは、神主に向き合うと差し出された玉串を彼の手から受け取り、拝礼はつつがなく終わった、はずだった。なんど姐さんは突然、神主に向かって「あなた、私の手を触ったでしょう」とクレームをつけたのだ。「おそらく触れたか触れないがぐらいのことだったと思う。もしかすると触れていないかもしれない。でも姐さんは触られた!と強く抗議した」。慌てた神主が否定すればするほど、姐さんのクレームはエスカレート。「今ならカスハラ(カスタマーハラスメント)で、逆に訴えられかねないが。この時は、最後は弁護士を入れるから待っていな、と捨て台詞を残して帰っていった」と組員はいう。
その後、姐さんは神主側と交渉。弁護士沙汰となり、「ご祈祷をお願いした自分の手をわざと触った」と主張する姐さんの言い分が世間に知られるのを恐れた神主側が、数百万円の示談金を支払ったのだ。「まさかこの手のやり口を神主相手にやるとは驚いた」と組員は肩をすくめた。
裏でヤクザまがいの方法で金を巻き上げた姐さんだが、表では女性の国際的なボランティア団体の会員として活動。上場企業の役員の妻や中小企業の社長夫人らと交流し、高級レストランでランチを楽しみ、ブランド物で着飾ってパーティーなどに出席しながら、慈善活動に精を出した。当時はまだ暴排条例も暴対法もなく、老舗の5つ星ホテルで組長の誕生会を催すことができた時代だ。全国で興行を仕切る暴力団と芸能界やスポーツ界とが関係を持っていた頃でもある。表と裏の顔を完璧に使い分け、社交術に長けていた姐さんの周りには、セレブの奥様連中が集まった。姐さんにとっては、それも情報収集の一環だったようだ。
だが終わりは唐突にやってくる。組長に別の女が出来たのだ。姐さんよりも若く、自分の世話を焼いてくれる女に組長は入れ込んだ。ほどなく姐さんと組長は離婚、姐さんは慰謝料をもらって家を出ていった。その後、彼女がどうなったのか聞くと、組員は「他のヤクザをつかまえてますよ」と口の端を上げた。彼女の姐さん業は続いている。