海外で”出稼ぎ風俗”業に手を染める女性たちが増えているという(イメージ)
不況が続く日本国内では稼げなくなり、海外に目を向ける人は少なくない。そして、それは性関連業界でも同様だ。
ジャーナリストの松岡かすみ氏の著書『ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢』(朝日新聞出版)では、違法な“性風俗業での海外出稼ぎ”を行っている女性の実体験のみならず、出稼ぎがはらむリスクや、女性がリスクを負ってまで“出稼ぎ風俗嬢”をするに至ってしまう社会的要因などを多方面から取材。現代日本社会全体で考えるべき問題を提起している。
海外出稼ぎをする女性たちにとって、最初の関門となるのが「入国」だという。各国は性産業で違法に就業する外国人を排除するため、水際対策を入念に行っている。そんな出稼ぎ風俗嬢を取り巻く、入国審査の暗闘を紹介する。(同書より一部抜粋して再構成)【全4回の第1回】
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ここ数年で増加する「海外出稼ぎ」
今、「日本より海外のほうが稼げる」と、海を越えて“出稼ぎ”をする性風俗業の日本人女性が出てきている。その数が一体どれぐらいなのか、正確な数字は定かではない。だが少なくとも1部(同書の第1部)で登場した6人の女性たちは、ここ5?10年以内に出稼ぎを始めた人ばかりだ。性風俗業で働く当事者らを支援する団体の元にも、日本から出稼ぎに行った人が現地でトラブルに巻き込まれるなどして相談が寄せられる機会が増えているという。
日本経済の停滞が長引く今、「海外のほうが稼げる」と国外に渡る例は、性風俗業に限った話ではないが、出稼ぎを選んだ女性たちに話を聞くと、「稼ぐためには“数”をこなすしかない日本の風俗業界に限界を感じた」「どれだけ頑張っても収入が変わらず、先が見えなかった」といった声も聞かれる。
通信技術の進歩によって、ネット上で誰もが自由に発信でき、世界中の個人同士が簡単につながることができる今、あえて旧来続く日本の風俗業界のシステムに即した働き方をしなくても良いと考えるようだ。
日本は不法就労を疑われる国に
現在、アメリカを始め多くの国が、売春目的での入国を禁止している。そのため、出稼ぎをする女性たちは、入国時には現地で働くことを伏せて入国し、現地で短期間働いて帰国するか、別の国に移動する。
言わずもがな、海外で働くには就労ビザが必要だが、性風俗業で就労ビザを取得することは難しいため、観光ビザなどで入国するか、表向きには別の仕事で就労ビザを得て入国し、副業的に性風俗の仕事をする人もいるようだ。
これらの行為はもちろん不法就労にあたり、検挙の対象となる他、国によっては逮捕される危険性もある。なお、オーストラリアやニュージーランドのように売春が合法化されている国であっても、別の目的で入国すると見せかけて現地で働くのは、不法就労となるのに変わりない。
実際に、ビザ申請のサポートを行う行政書士らの事務所では、売春や不法就労を疑われて入国を拒否された日本人女性からの相談件数が大幅に増加する事態が起きている。
「2020年末ぐらいから、『売春疑いで入国できない』という若い日本人女性からの相談が相次いでいます」
こう話すのは、アメリカのビザに詳しい行政書士の佐藤智代さん。それまで売春疑いの入国拒否に関する相談は、年間4?5件ほどが相場だったのが、最近では多い時で1か月に8件の相談が来るほどに急増しているという。
佐藤さんの元に「入国できない」と相談に来る女性は、本当に売春や不法就労が目的だった人もいれば、ただ観光目的で入国しようとした人もいる。年齢は20代?30代半ばが多く、水商売や性風俗の仕事をしている人もいれば、昼は事務職でたまに風俗の仕事をしている人、キャバクラ勤務やパパ活などでお小遣い稼ぎをしている人などさまざまだという。もちろん普通の会社員や学生で性風俗業とは全く縁がないといった女性もいる。ただ、相談者の多くが“単身で”入国しようとした女性だ。
「相談実績から推察するに、実際にアメリカに売春目的で入国しようとする日本人女性が増えているのでしょう。移民局もこうした動きに目をつけていて、明らかに警戒態勢が強まっています。ロサンゼルス、ニューヨーク、ラスベガス、シアトル、ハワイなどで売春を疑われて、入国拒否を受けたという相談が非常に増えています」