SNS戦略も周到だ(イメージ)
また、セクシー、色っぽい、エロいなどといった、いわゆる性風俗の王道的なイメージとは一線を画した雰囲気を意識し、胸を強調するような写真などは一切ない。さらに、料金もホームページなどではあえて公表しない。いわく、「本当にお金がある人は、『一体いくら払えばプレイができるのだろう』と想像する時間も楽しむものだから」というのが理由だ。
「だから同業者で料金設定を書いている人って、やり方が下手だなあって思っちゃいます」
インスタグラムでのブランディングも抜かりない。例えば各都市のツアーでの出来事をまとめたストーリーのアーカイブを辿ると、滞在先の豪華なホテルに、飛行機のビジネスクラス席での優雅な時間、豪勢な食事にきらびやかなリゾートなど、リッチな世界が繰り広げられている。客を富裕層に絞るためには、どこからどう見ても、”お金がかかる女性“であるように見せるのが、ブランディングでも重要なポイントの一つだという。
「お金がある人は、何か非日常の“体験を買う”ことで、お金を使いたいと考える人が多い。だから『私は刺激的な体験ができる、お金のかかる女ですよ』という看板を掲げておくんです。そうすると、こうした世界観に共鳴する人が絞り込まれてきて、ある程度お金のある人しか寄って来なくなる」
こうしたブランディングが一定のフィルターの役目を果たしているというわけだ。加えて事前の問い合わせ段階でのやり取りを徹底していることもあってか、海外での接客時に怖い思いをしたことはこれまで一度もないという。
同業者に技術を売る講師活動も
性風俗のさまざまなジャンルにおいて、同業者向けに自分の知識や技術を売る動きが、ここ数年でより活発になってきている。マリエさんは7?8年前と早い段階から、国内外で特定の性的なサービスに伴う技術を教える講師としても活動してきた。
マリエさんのSNSなどで紹介される技術に興味を持った同業者らから、「技術を教えてほしい」と問い合わせが入ることもある。ツアーで訪れる都市で場所を借り、同業者向けにクラスを開催したり、個別指導を行ったりもしている。
最近は、欧米の都市で1人1日500ドル、生徒数人のクラスを3日間持ち、日本円で261万円程度の収入を得た。日本でも同様のレッスンを行っており、初回は10万円、2回目以降のレッスンは2万円としている。これまでにレッスンを受けにきた日本人は15人ほどで、海外でのレッスン参加者のほうが多い。講師活動は、人に教えられるほど技術力が高いという点で自身のマーケティングにも有効で、かつ同業者のネットワークを広げることにも一役買っている。
「私は『今、これをやったほうがいい』という動物的な勘が鋭いほうだと思う。講師として活動することも、性風俗の仕事をするうえで大きなメリットをもたらすと思って動いてきました。
方向性や感覚が合えば、こうして出会った同業者と一緒に、客へのサービスをすることもあります。お互いの客を広げることにもつながるし、知見を深める機会にもなる。単身で活動するうえで、同業者のネットワークがセーフティネットとして機能することもあるから、横のつながりはとても大切なものです」
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“性風俗業での出稼ぎ”は第1回でも紹介したように大きなリスクが伴う違法行為だ。しかしマリエさんは、高い収入が見込めることはもとより、日本よりも自分の裁量で働けることに強い魅力を感じているようだ。
第3回に登場するミドリさん(仮名・35)も日本の風俗業に窮屈さを感じ、「日本の風俗には、もう戻らない」と決めていると言う。
「日本の風俗業界は、男を喜ばせるために男が作った、男のためのシステムという感じ」
彼女がそう語るワケとは──。
松岡かすみ・著『ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢』(朝日新聞出版)