不夜城・新宿にはホストクラブも多い(イメージ)
実は、日本では、そのホストと一緒に暮らしているらしい。「好き同士だけど、彼氏彼女じゃないし、男女の関係じゃない」と話す口ぶりには、言葉では説明しづらい複雑な感情や関係性があるようだ。キョウコさんが海外に出稼ぎに行くことについて、ホストは心配もしていたという。
あえてその関係性を問うと、 “共依存”という言葉が返ってきた。
「私は『これだけお金をつぎ込んできたんだから』という気持ちがあるし、向こうは『これだけ自分にお金をつぎ込んだ女なんだから』という気持ちがある。私も向こう(彼)に依存してるし、向こう(彼)もお金を使う私に依存してる。だから、恋愛関係とかじゃなくても、ちょっとやそっとじゃ離れられない感じになっちゃってる」
キョウコさんは、「悪徳エージェントやスカウトに騙される女性が減ってほしい」 「考えなしに出稼ぎに行く女性が増えることで、(出稼ぎマーケットにおける)日本人女性の質を落としたくない」という理由で、海外出稼ぎ中に取材に応じてくれた。
「これは書けない話ですが、理解を深めていただくためにお話しすることは可能です」と線引きをしながらも、自分が体験したことについて言葉を紡いでくれた。自身も出稼ぎマーケットにおける当事者の一人でありながら、広い視点でマーケットの動きを捉えている印象だ。
「経験もしてないのに決めつけるのは嫌」という姿勢は、出稼ぎに限らず、これまで自身が徹底してきたことなのだろう。自分が実際に経験したことから分析し、自分なりのルールを設けて実践し、反省点を次回に生かす。いわばPDCAサイクルが機能しているようにも見えた。
淡々と落ち着いて話す口ぶりは、到底“ホスト狂い”とは結びつかない印象だが、そこには複雑に絡み合ったものがありそうだ。
* * *
著者の松岡かすみ氏はあとがきで「出稼ぎの動きは、ある意味で、日本経済や社会状況が読み取れる一つの指標とも言える。『今の経済状況が続く限り、出稼ぎの動きは止められない』とする声もあるが、リスクをよく考えずに、安易な考えで出稼ぎに行こうとする女性たちが減ることを望むばかりだ」と綴っている。
さまざまなリスクをはらむ“海外出稼ぎ風俗嬢”。彼女らの事情を知ることは、日本社会の“病巣”と向き合うということなのかもしれない。
(了。第1回を読む)
松岡かすみ・著『ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢』(朝日新聞出版)