奉納土俵入り当日の朝に届いたのが春場所で披露する龍の文字を図柄化した三つ揃いの化粧まわしだ
「入門した時から横綱が目標だったが、今てっぺんになれたので、豊昇龍の相撲が横綱相撲だといわれるようになりたい」
第74代横綱・豊昇龍に「横綱相撲」について質問すると、こんな答えが返ってきた。そして、こう続けた。
「自分らしい横綱像を目指して頑張るしかないと思う。誰かの真似をしてもそこで終わりじゃないですか。どんなにすごい横綱だった人のことも真似しないことを一番にして、新しい横綱像を作りたい」
過去、無難な受け答えをする新横綱が多い中、豊昇龍は自分の言葉で語れる横綱というのが担当記者たちの評価である。
春場所の番付発表の会見でも、いきなり看板力士として角界を引っ張るひとり横綱の立場に「最初から責任重くないですか」と苦笑いしたが、「ちょっと怖いが、勉強として横綱のプレッシャーをぜんぶ体で感じたい。何が起きても休場はしない。仕事である相撲を最後まで取り続けます」と本場所への覚悟を見せていた。
場所前、横綱となった実感を聞くと、「本場所の土俵に上がっていないので、まだ本当の実感がない」と本音を漏らしていたが、本場所が近づくにつれて横綱の風格が日に日に増していった。
立浪部屋が大阪宿舎にしている「住吉大社」との縁
立浪部屋の稽古場に豊昇龍が登場すると、空気がピンと張り詰める。幕下以下の力士の申し合いが始まると、大きな声で発破をかける。幕内・明生との三番稽古では稽古場に2人の荒々しい息遣いだけが響く。そして、組んでも離れても圧倒的な強さを見せる。
稽古後に近隣の幼稚園児や相撲道場の子供たちとの相撲体験会が行なわれると、率先して盛り上げ役に回る。稽古中の厳しい表情は消え、満面の笑みとなる。後援者への挨拶も忘れない。「今まで通りではいけないし、責任を持ってみんなを引っ張る」と番付発表の会見に話していたことで、このメリハリが豊昇龍の成長として周囲に映る。