蛯名正義氏はジョッキーの「スマホ使用」についてどう考えているのか
1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、ジョッキーの「スマホ使用」問題についてお届けする。
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弥生3月、新人ジョッキーの未来は前途洋々のようですが、一方でここ2、3年、若手ジョッキーを中心に調整ルーム内や移動中のスマホ使用が問題になり、騎乗停止の処分を受けたり、中にはそのまま引退してしまったりという残念なこともありました。それぞれの事情や状況がよく分かっていないのでとやかく言うことはできません。ただジョッキーの先輩として思うことはあります。
こういったルールが規定されているのは、僕ですら生まれていない遠い昔、今ほど競馬が誰もが楽しめるレジャーとしては認知されていなかった時代に不幸な事件があったことが影響しています。
世の中がまだまだ豊かではなく、賞金なども今よりずっと安かったために、ごくごく一部の騎手が手っ取り早くお金を得るために、外部の反社会的勢力の奸計に乗せられ、レースで手を抜いた疑いがかかったというのです。逮捕者も出て社会的にも大きな問題となり、国会では関係者の参考人招致が行なわれたり、「公営ギャンブル廃止」を公約に掲げた選挙運動が行なわれたりしたとのことです。
主催者である日本中央競馬会(JRA)はそんな風潮を払拭しなければならないとさまざまな規制を明文化し、周知徹底させてきました。馬に対しては何度も検査が義務付けられ、ジョッキーにはレース前日21時までに競馬場やトレセンの調整ルームに入り、外部との接触を断たなければならないというルールが課せられた。レースの公正さが疑わしいと思われる事態をすべて排除してきたのです。
「公正確保」のために多くのルールが定められ、それが長い間厳正に守られ、さらに先輩たちが競馬発展のために努力を重ねてきたからこそ、競馬がエンターテインメントとして広く認知されるようになったのです。馬券売上も超一流企業並みとなり、老若男女多くのファンが競馬場を訪れ、ジョッキーの存在にも注目が集まり、ひいては競走馬の質も向上し「世界一」と胸を張れるまでになったわけです。