本当に怖いのは「知の貧困」
これも担当編集者なら何度も聞かされた言葉だが、曽野さんが「電気のないところに民主主義は届かない」と繰り返した真意はなんだろうか。
もちろん単に文字通りの意味ではないが、多くの場面で真実でもある。人は生活と安全があってこそ、人権や平等、心の豊かさを持つことができるということだろう。翻って、豊かで安全な境遇で暮らす人々に対しては、「知の貧困」に陥らないよう警告する箴言も多く残した。曽野さんは、日本人が留学や外国旅行を避けるようになったことを憂い、海外に興味を失った理由は、日本の暮らしが世界で最高だと感じているからだと分析した。
〈豊かで贅沢になれたお坊っちゃま・お嬢ちゃま日本は、ますます体験不足の無知に傾いても仕方がないのだ〉
そう皮肉を交え、日本人が井の中の蛙にならないよう戒めた。
新聞やテレビの報道に対する苦言も多かった。2016年のトランプ大統領誕生に際し、アメリカのマスコミの多くは「誰も予想しなかった」と報じたが、それは人間の心の機微を見ずに、きれいごとの人道主義を謳い続けた結果だという。
〈最も危険なのは、人権・人道主義さえ守っていれば、それで世の中は通る、と考える最近の風潮だ〉
ここでもまた、「きれいごと」で済まそうとする安易な姿勢を厳しく批判した。