水原一平(左、Aflo)と「親友」デビッド・フレッチャー(右、時事通信)
ドジャース・大谷翔平(30)の口座から不正送金したとして、禁錮4年9か月、賠償金約1700万ドル(約26億円)の支払いを言い渡された元通訳・水原一平被告(40)。日本ハムで大谷の信頼を得て渡米した水原はなぜギャンブルに手を染め、“相棒”を裏切ったのか──。きっかけは、2人のチームメイトである「親友」からの誘いだった。ノンフィクションライターの水谷竹秀氏がレポートする。(文中敬称略)【前後編の前編】
きっかけは“同期”
前回記事『《水原一平はなぜ「大谷翔平の通訳」に選ばれたのか》日本ハムの元同僚が明かした“別のスター選手”との「幻の渡米計画」』では、野球好きだった学生時代から、2017年オフに大谷に見初められ渡米するまでの足跡をたどった。その後、憧れだったメジャーの舞台で水原を待っていたのは、ギャンブルの落とし穴だった。
それは、大谷と水原がエンゼルスに入団して4年目の2021年に始まった。
米連邦地裁に提出した書簡で、水原は当時についてこう振り返っている。
〈2021年、私は不運にも翔平のチームメイトの1人を通じて、スポーツ賭博の胴元、マシュー・ボウヤーに出会ってしまった。ギャンブル業界に無知だった私は、(賭け続けた)2024年初め頃まで彼が違法な胴元だとは知らなかった。当時はお金に困っていたため、金銭的な助けの機会になる可能性があるのではと漠然と考え、彼の(運営する)スポーツ賭博のサイトを使い始めた〉
水原が違法賭博の胴元・ボウヤーと出会ったのは、カリフォルニア州サンディエゴにあるポーカー会場だった。「翔平のチームメイトの1人」とは、エンゼルスの内野手、デビッド・フレッチャー(30)とみられる。
イタリアにルーツを持つフレッチャーは、大谷・水原と同じ2018年からエンゼルスに所属する“同期”だ。大谷と仲が良いことで知られ、グラウンド上で戯れ合う姿がよく見られた。水原とも親しく、2023年に開かれたWBC期間中、水原に予約してもらった日本の寿司店へイタリア代表のチームメイト数人と訪れ、感激していた。
そんな「親友」が水原に紹介したのは、結果的に大谷との絆を引き裂くことになる違法胴元だったのだ。
水原の書簡によると、以来、ボウヤーが運営するスポーツ賭博のサイトで野球以外のスポーツに賭けるようになった。
〈(ギャンブルの)結果は私の予想とは全く反対だった。ギャンブルによる借金が莫大に増え、翔平のお金を使う以外に返済方法を見つけられなかった。(中略)その時の私は、ひどい中毒に陥っていた。ギャンブルをやっている時しか、人生に希望を見出せなかった〉
こうして水原は2021年12月から2024年1月までの約2年間に、合計1万9000回賭けた。勝った金額は約1億4225万ドル、負けた金額は約1億8293万ドルで、全体を通じて約4068万ドルの負けだった。日本円にして約61億円のマイナスである。
水原が銀行詐欺の罪で訴追された翌月、フレッチャーも違法賭博関与の疑いでMLBの調査対象になったと報じられた。
本人は現地メディアの取材に対し、「ボウヤーとゴルフに行ったことはあるが、彼のもとで賭けをしたことはない」と否定していたが、ボウヤーの顧客リストには載っていた。その後の調査の進捗はわかっておらず、現在もアトランタ・ブレーブスのマイナーチームに所属している。
私は昨年10月、彼の自宅と思われるロサンゼルスの家を訪れたが、チャイムを鳴らしても応答はなく、彼のものとみられる電話番号を通じた取材依頼のメッセージにも反応はなかった。そして今年1月、彼のインスタグラムには「チャリティー・ポーカー」の告知がアップされていた。