「混んできたら3列飲み」

 カウンターにもたれて飲んでいる60代の客が「ほら、お客を見てみ」と語り始めた。「この店ではな、混んでくると、自然とカウンター側と壁側にもたれる客、その間でどこにももたれない客と、3列になるんやで」。本日も大盛況の3列飲みだ。

 この60代氏は、ちびちびと飲みながら、自分のスマホで、春江さんや客らの似顔絵を描いている。出来のいいものはプリントアウトして店内に貼り出すのだという。観察眼の鋭い彼の本業はカメラマンで、取材がきっかけで通うようになった。「彼はな、私を美人に撮ってくれるねん(笑)」と春江さん。

 その斜め前には、ほうれん草の白和をつまみながら楽し気な様子の4人連れの女性たち。一人が「私のグラスだけ違うと思わへん?」と自慢げにグラスを見せてくれた。確かに、色輪ゴムがぐるぐる何本も巻いてある。手作りの飾り付けだ。「20年通ったら、お兄ちゃん(三晃さん)が私専用グラスを用意してくれてん。めっちゃ嬉しい」(スポーツメーカー、40代)。

 男性二人組客の一人が「こないだ計算してみたんや。40年以上は週5で通って、おれはざっと1千万円は使うてるなあ(笑)」と言うと、「そんなになるか?」と疑う相方。「それがいくんや。コツコツと。えらいこっちゃで、ひと財産や。ええ人生やん。悔いなしやろ」とニコニコ。

 実家より長い時間をこの店で過ごし、自分の親以上に、「お母ちゃん」の顔を見て、一杯やるのを楽しむ面々。

 突然、「どや、取材は進んだんか」と通天閣のように背が高いと称された男性が話しかけてきた。元新聞記者だったという。「俺やったら、見出しは、そうやな、『天王寺界隈でナンバーワン。賑わいが混ざる”間(あわい)の町”で、お母ちゃん細腕繁盛記』かな。どや?」

 客らが口々に店への想いを語っているとふいに「お母ちゃん、ありがとう」の声がして焼酎ハイボールで乾杯。

春江さんを慕う客らが感謝の気持ちを込めて乾杯!

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「あったかいこの店にキリッと辛口の酒はよく合うね」(前出の50代)

春江さんが毎日作る“浪速のお袋の味”は大人気

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■近江屋今津酒店

【住所】大阪市天王寺区烏ヶ辻1-1-9
【電話】06-6771-1054
【営業時間】16~19時半 土日休
焼酎ハイボール310円、ビール大びん440円、すじじゃが300円、鳥きも煮250円、なま酢250円、ほうれん草白和250円

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