チェーン店ではない昔ながらのレトロな喫茶店は日本の若者だけでなくインバウンド客からも人気を集めている(写真提供/イメージマート)
警察や軍関係、暴力団組織などの内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、インバウンド客が急増した街の小さな喫茶店が悩まされている支払いトラブルについて。
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店のドアを開け、外国人の3人組が出て行った。「明日来ると言って出て行った客が、本当に戻ってくることは、まずないと言っていいね」。2人組の後姿を見送りながら、マスターは苦虫をかみつぶしたような表情を見せた。
都内にあるレトロな喫茶店は、今、インバウンドの客で大混雑だ。今時、タバコが吸えるとあって、喫煙者に取材する時はよく使っていた店だが、コロナ禍が終わった頃から様相が一変。コロナ前はいつ行っても店に入ることができ、常連さんたちが珈琲を飲みながらタバコを吸い、江戸っ子的な気っ風のいい名物マスターの辛口トークを楽しんだり、マスター自慢の一品に舌鼓を打ったりしていた。ところが今は、早朝から店の前に大行列ができ、入ることすらできなくなった。常連客は姿を消し、タバコを喫う客はもはや1人もいない。
久々に入れた店の中は、冷え込んだ日にもかかわらず蒸し暑かった。25人ほどで満席になる店内はインバウンド客でびっしり。その熱気で暖房がいらないほどだ。昭和感満載のレトロな店内から窓の外を見ると、さらに入店待ちの行列が伸びていた。「ほとんど外国の観光客だよ。早いと朝6時から並んでいるんだから、びっくりだよ」とマスター。開店より2~3時間早く待っているという。「もう慣れたけどさ。窓から見て、あそこの電信柱の所まで並んでいたら、待ちはだいたい45人と見当がつくようになった」とひっきりなしに手を動かす。
行列ができるようになったのは、外国人観光客たちのSNSだ。来店した客がSNSにアップした写真や動画が拡散され、続々と外国人客が訪れるようになった。「前は外国人といえば仕事で日本にきたビジネス客。今は世界各国どこからでもやってくる」というマスターに、女性の2人組が「Can I take a photo?(写真を撮ってもいい?)」と尋ねる。マスターは笑顔を見せて「OK」と、2人と一緒にカメラのフレームに収まり、最高の笑顔を見せた。なかなかシャッターを切らない客には「早く早く、待ってらんないよ」と催促。「こっちは時間との勝負なんだからさ。いちいち客に合わせていらんないよ。だって1日150枚だよ」とうんざりした顔をする。一緒に写真を撮りたがる客が1日平均150組いるのだ。