個展で展示されている『We The People』(2025)
『The Fall High』(2023)
『Catharsis Metanoia』(2024)
大手スポーツメーカーの仕事から名前を知られるようになり、次々と依頼が舞い込むように。現在は世界中の美術館から作品を買い求められる存在だ。そんな松山が創作活動で変わらず意識してきたのが、マイノリティとしての自身の立ち位置だった。
「少年時代にアメリカでマイノリティとして過ごし、日本に帰ってもなんだか居心地の悪い思いをした。近年、異文化のなかで学齢期を過ごした子供たちを『サードカルチャーキッズ』と呼ぶのですが、僕はまさにそれ。どこにいてもどこかで自分はマイノリティであるとの思考なんです。だからこそ、目の前の現象を表現し、批判できる強みがある。例えば硫黄島に星条旗を立てた絵は日本人とアメリカ人では捉え方がまったく違う。そういった両面を俯瞰して表現していきたい」
展示作品のひとつ『We The People』(2025)は、フランスの画家ジャック=ルイ・ダヴィッドの『ソクラテスの死』の構図を綿密に再現したもの。ただし、ソクラテスがいるのはアメリカのスーパーマーケットを模した広い廊下。登場人物の衣装も様々なカルチャーのミックスだ。
「若者を堕落させた罪で死罪となるソクラテスは毒杯をあおって尊厳死を選ぶのですが、僕の絵のソクラテスの器にはアメリカ製のシリアルが満たされている。一方で棚には薬品が満載です」
この絵を観る者は、健康被害が問題視されるシリアルに代表される超加工食品を提供し続ける食品業界や、国民の不健康によって富を得る製薬業界への批判的な視点を探り出すことになる。
「このような記号を作品の中に並列に配置することで、様々な解釈や意図が生まれ、そこに価値が生まれる。僕がうまい棒でやりたかったことにもつながるわけです。皆さんにもそれぞれの感覚でアートを感じてほしい」
新たな価値への気付きとなる作品を生み出すため、松山は思索を続ける。
(前編から読む)
【プロフィール】
松山智一(まつやま・ともかず)/1976年、岐阜県生まれ。現代美術家。2002年、上智大卒業後、ニューヨークへ。アート活動を始め、ペインティングを中心に彫刻やインスタレーションを手がける。世界各地のギャラリーや美術館で個展を開催。5月11日まで個展「松山智一展 FIRST LAST」が麻布台ヒルズ ギャラリースペースにて開催中。
聞き手/末並俊司(ジャーナリスト) 撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2025年4月11日号
『Divergence Humble Solitaire』(2024)