「出走させるからには勝利を目指します」(蛯名正義氏)
1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、桜花賞への挑戦についてお届けする。
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ようやく暖かくなってきて誰もがコートを脱ぎ捨てて気分がよくなる季節。なんといっても日本人が大好きな「桜」という名前が冠せられたレース。ジョッキー時代からウキウキしてその日を迎えていました。
GIのなかでもクラシックは特別です。他のGIはチャンスさえあれば何回も出られるし、強い馬なら何回も勝つチャンスがある。クラシックはその馬にとって一生に1度だけのこと。同世代の牝馬はおよそ3800頭、3歳のこの時期にたった18頭しか出られないのです。
特に牝馬の場合は「無事に牧場に返してお母さんとして血を残してあげる」というのが、馬で生活している我々の務めです。そのために「桜花賞」というのはこれ以上ない勲章。将来その子どもたちに助けてもらうこともあるし、教えてもらうこともある。馬は大事にしているといつか返してくれる……という思いでいつも接しています。
アパパネは僕にとって特別な馬ですが、その母のソルティビッドにも騎乗していました。競走馬として乗っていた馬が母になって生んだ子が牝馬三冠を勝たせてくれたし、その子供のアスパルディーコには調教師として関わることができました。
2008年の桜花賞ではエフティマイアで2着。この馬は師匠である矢野進先生の管理馬で、夏にデビューして新潟2歳ステークスを勝った時は先代のオーナーもご健在でした。デビューした時からずっと乗せてくれていた恩人でとても感謝しています。今のオーナーにはエフティマイアの子供にも孫にも乗せてもらっていたし、引退してからはお母さんとしても頑張っている。競馬って馬も人も続くのだなあと思うと、とても感慨深いものがあります。
厩舎を開業して4年目、桜花賞に管理馬プリムツァールを出走させます。「やっとクラシックにたどり着いた」という思いです。こういう馬を預けていただいて、桜花賞は出なければならないと思っていました。