警視庁が押収した車両=9日、東京都江東区(時事通信フォト)
盗難車に別の車のナンバープレートを違法に付け替えるなどしたとして、自動車整備会社の社長が警視庁と千葉県警の合同捜査本部に逮捕された。疑惑の車はナンバープレートだけでなく車の識別番号にあたる車体番号も付け替えられており、盗難車をやりとりする界隈では「ニコイチ」と呼ばれる改造車の一種だという。ライターの森鷹久氏が、そんなに無理をしてまで「高級」自動車を改造し販売、購入する人たちについてレポートする。
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「以前は建設系の会社が入っていたんだけどね。コロナ禍に入ってからくらいだったか、自動車の整備工場になったのかと思っていた。でも、急に田んぼの真ん中にアルファードとかヴェルファイアとか、黒塗りの高級車ばかり並べだして、ベンツ、アウディみたいな高そうな外車もあってなんか様子がおかしかった。路上にはみ出して何台も停めてね、邪魔だけど気味が悪いし、文句も言えなかった」
近所に突如出来た「整備工場」についてこう振り返るのは、埼玉県吉川市で農業を営む男性だ。そしてこの整備工場を運営していた会社社長の男が、盗難車両に別の車のナンバーを違法にとりつけ、暴力団員などへの販売を繰り返していた疑いで逮捕された。取材した大手紙社会部記者が説明する。
「会社社長の男は、盗難車のトヨタ・アルファードに別の車のナンバーを取り付けて走行した道路運送車両法違反の容疑で逮捕されました。ネットオークション等で購入した格安の型落ちアルファードから、エンジンルームや運転席などに刻印してある”車体番号”を、新型モデルの盗難車に付け替えていた。さらに、そうした車を何台も、暴力団関係者に販売していたのです」(社会部記者)
2つのモノを1つにまとめたり、1つのものを作ることを「ニコイチ」と呼ぶが、自動車の世界では事故車の再生などのために、別の車両から多くのパーツを移植して「車2台を1台にする」という意味で使われてきた言葉だった。しかし、車体番号を無理やり移植することで、盗難車を正規車に見せかける手法が地下で横行するようになり、暴力団関係者やその周辺界隈では、主にこちらの違法行為を指して「ニコイチ」と呼ぶようになった。
人気があるのは、アルファードとヴェルファイア
埼玉県内で中古車販売チェーンを営む男性(60代)が顔をしかめながら、自動車販売の業界事情を打ち明ける。
「暴力団排除条例のおかげで、ヤクザや警察にマークされるレベルの反グレは、一般人と同じように車を買えなくなりました。まずローンが通らないし、車屋はヤクザと付き合ってはダメ、ということです。ですので、ヤクザが乗っている高級車の中には”金融車”と呼ばれる、いわく付きの車両も多い」(中古車チェーン代表)