代々医師一族の麻生家に〈送り主不明の花〉が届いたのは数日前。それを見て〈孫がいる〉と直感した夫人は息子の幼馴染・稲垣に相談し、彼は着手金1000万円+成功報酬というこの案件を〈罪滅ぼし〉も兼ねて回してくれたらしい。
元々露悪的な敏弘は生前、妊娠して結婚を迫る恋人を〈島流しにしようと思う〉〈第六台場さ〉と冗談ともつかないことを話していたという。やがて恵子はその女性〈中沢ゆかり〉が所属する宗教団体で15年前に死因不明の集団突然死事件が起きたことや、以来姿を消したゆかりには戸籍自体がない事実を掴む。
そして『カルト集団死の謎』の著者〈上原〉や敏弘の先輩の物理学者〈露木〉の協力も得てゆかりの行方を追う中、奇しくも恵子は元同僚の〈葉月有里〉から横須賀在住の自衛官と都内在住の会社員が突然死した別件の取材協力を依頼され、〈複数の人間を同時に死に追いやった「未知のモノ」〉の存在を確信。その正体を探るべく、まずは故人宅のゴミ漁りから始めるのだ。
15年前と今がどう繋がり、孫の存在すら不確かなまま謎を追う恵子同様、鈴木氏自身、「展開は書いてみないとわからなかった」と語る。
書けば書くほどイメージが深化
「実はこれ、出発点は都が所有する立入厳禁の人工島、第六台場にあって、『仄暗い水の底から』(1996年)所収の短編『孤島』を広げたような作品でもあるんです。
僕は無人島には必ず上陸したくなる人間で、昔から狙っている第六台場を書くとしたら、さあ、何が起きる? 何が起きる? って地図を見ながら考えるわけですね。荒川を遡上して、お、秩父にはダム湖がある、ここにもしアオコが大量発生したらって、書けば書くほどイメージが深化していく。最終的には地球生命の誕生や宇宙の真理に近づくことが、僕が小説を書く最大の目的なんです」