その姿勢は〈森羅万象をしっかり観察して、より優れた数式で記述する〉ことを使命とする露木と重なり、植物達の企みに端を発した地球規模の非常事態を前に彼や恵子達が〈やるべきことを、やる〉圧巻のラストには、人間の無力さと偉大さとが絶妙に入り混じる。
「もちろん露木も言うように、人類がどんなに科学を究めても、この世界を完璧に理解することはできない。例えばカール・セーガンの小説『コンタクト』の中に素数を使って宇宙人と交信する場面がありますけど、素数を使って地球外生命体と交信するのは不可能です。
『99.9%は仮説』(竹内薫・光文社新書)というベストセラーがありますが、実は脳機能も宇宙の法則も今ある解釈の99%は仮説に過ぎない。それでも何とか筋の通った解釈に少しずつ近づくことならでき、その近づく手立てが僕の場合は小説を書くことなんです」
いずれその成果は四部作完結編『ユビキタス4』に結実予定だといい、知性の限界と可能性を知り尽くす著者の底知れぬ好奇心こそ驚異だ。
【プロフィール】
鈴木光司(すずき・こうじ)/1957年静岡県浜松市生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科卒。1990年『楽園』で第2回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞しデビュー。1991年の『リング』以降『らせん』『ループ』へと続くシリーズは映画共々大ヒットし、ハリウッドでリメイクされるなど国際的に活躍。1996年『らせん』で吉川英治文学新人賞、2013年『エッジ』で米シャーリイ・ジャクスン賞長編部門。ヨットやバイクなど趣味も多く、毎日10回×3セットの懸垂を今も欠かさない。170cm、66kg、O型。
構成/橋本紀子
※週刊ポスト2025年4月18・25日号