勝てるジョッキーは何が違うのか(蛯名正義氏)
1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、若手ジョッキーについてお届けする。
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プロ野球も開幕。ルーキーが活躍して勝利に貢献したという話も聞こえてきます。野球では高校や大学、社会人野球で活躍した選手が、ドラフト会議で指名されてプロの世界に入ってきてその期待度も違いがあります。しかし、ジョッキーの場合は模擬レースこそありますが誰も実際の「競馬」を経験したことがないので横一線のスタートです。
所属厩舎の調教師はなんとか勝たせてあげようと、自厩舎だけでなく他の厩舎にも頼み込んで経験を積ませようとするでしょう。僕らの時代は、あちこちの厩舎に自分を売り込んだり、調教を手伝ったりしましたが、今は新人ジョッキーでもエージェント(騎乗依頼仲介者)がついて騎乗馬を探してくれるケースもあります。
僕の1年目の騎乗回数は200回ぐらいで、それでも恵まれていた方ですが、昨年デビューした新人騎手のうち3人は年間400回以上騎乗しています。僕が400回以上乗せてもらえるようになったのは通算200勝をクリアした6年目。騎乗依頼が少ない中、どうやったら勝てるのかと考え、一つでも着順を上げようと、騎乗していないレースもじっくり見ていました。
昔は大変で今は楽だよねと言っているわけではなく、これは競馬のシステムが進化したということ。今は昔より圧倒的に情報量が多い。映像なんかもしっかり整備されていて、見たいレースはすぐ見ることができます。海外のレースもリアルタイムで見て勉強することができる。世間の注目度も上がったことでおかれている環境が違う。競馬学校の指導も充実してきているので、デビュー時点での技術は僕らの時代よりはるかに上だと思います。
それだけに早い時期に結果を求められているのも事実。夏が過ぎるとその時点で勝っていない未勝利馬は居場所がなくなってしまうけれど、ジョッキーもデビューして数年で結果が出ないと、そこから上がってくるのが難しくなっていると感じます。
僕らの時代は、コツコツ頑張っていたら、中堅になってどこかでチャンスをもらって伸びていくジョッキーもいました。でも今は若い時に結果を出さないと、復活するのは大変という風潮になっていると思います。勝利数や騎乗機会の差は数字にはっきり現われますからね。