両陛下が9時15分までしか観戦できないというのはグラウンドには伝えられていなかったが、その1分前に村山から長嶋が劇的なサヨナラ本塁打を放った。スーパースター・長嶋ならではのドラマだった。小山さんはこう話していた。
「村山はファールだったといっているが、あれは完全な本塁打。ベンチから見ていてもわかったし、捕手の山本哲也も三塁の三宅秀史も確認していた。長嶋の名誉のためにも言っておくが、特大ではなかったが正真正銘の本塁打だった」
ライバルの村山には引退後も厳しかった。そして、こう続けるのだった。
「試合後、ベンチから下がった全員に菊の御門入りの煙草が配られた。ボクは吸わないので親父に持って帰ったが、感激して見入っていた。いい親孝行ができたと思っている。それぐらい天覧試合は凄いことだった」
そう回顧したうえで、最後にこんな一言を添えた。
「やはり先発した試合が勝てなかった悔しさは今も残っている」
村山のような派手さはなかったが、勝利への執念は誰にも負けなかった。心よりご冥福をお祈りいたします。
◆取材・文/鵜飼克郎(ジャーナリスト)