六法全書
事件、離婚、相続などあらゆる争いごとに対して中立な立場から判決を下す裁判官。その影響力の大きさのあまり、どこか人間離れしている存在にも思えてしまうが、20年間裁判官を務め、その後弁護士として活躍する井上薫氏は、実際には”俗人”だとその人物像を赤裸々に明かす。『成績表』を公開されプレッシャーに感じたり、飲み会で本音を言われ傷ついたり、上司の顔色を伺ったり……。
裁判官のリアルを記した井上氏の著書『裁判官の正体 最高裁の圧力、人事、報酬、言えない本音』(中公新書ラクレ)より、一部抜粋して再構成。【全3回の第2回。第1回から読む】
恐怖の成績表
学生時代には通信簿というか、学校から定期的に成績表が渡されました。裁判官にも実はそれに似たようなことがあります。成績表とは書いてないですが、一定の範囲内で民事部の事件件数とか出ている書面を裁判官に配るのです。
今何件係属しているか、この1か月で何件新件が入ってきたか、何件処理したか、要するに、新件の数より処理する数が少ないと事件がたまってしまうわけですね。「誰々さんは事件をためた。大変だねー」とか陰口をいわれたりします。個人名まで載ってなかったように記憶していますが、 ただ民事第◯部の◯◯係といえば裁判官が誰かみんなわかります。したがって、あの人ちょっとサボっているなとか、ちょっと能力ないなとか、内部ではわかってしまいます。
優秀な人はいいだろうと思いますけども、ちょっとためちゃった人はかなりのプレッシャーになると思います。だからといって他の裁判官の面前で「困ったなー」とか「サボりすぎたかな」などと話題にすることはありませんでした。司法行政から見ると、裁判官同士を競争させて仕事を叱咤激励しているというふうにも見えます。直接司法行政の担当者がやってきて、お前もっと仕事しろとおしりを叩くわけではないけども、こういう成績表を見せられると今まで成績優秀でずっと学生時代から過ごして来た裁判官たちですから、応えます。
司法行政関係、特に懇親会とか宴会とか、そういう場面でいろいろと裁判官同士が会話をすることがあります。所長から直接話をされることもあります。所長というのも裁判の仕事をしていると用事がないものです。別に所長のところに行ったからって裁判の仕事がはかどるわけでもないので、用がなければ会うこともありません。