卵子凍結を考える人も増えているという(写真:イメージマート)
〈今年も今のところ結婚願望なし、卵子凍結済みで生活してます〉──タレントの指原莉乃がXにそう投稿したのが2023年11月。昨今、彼女以外にも卵子凍結を公表する女性タレントは増えてきた。
卵子凍結とは、その年齢時点の卵子を体外に取り出し凍結保存する技術だ。凍結した卵子は-196℃のタンク内で保管され、妊娠や出産の準備が整った段階で融解。その後、体外受精で妊娠を目指すことになる。
今は妊娠・出産を考えられなくても、将来の“備え”として注目されている「卵子凍結」。しかし将来的な出産の可能性を残せる一方で、「妊娠を先送りする」という決断は、新たな問題を孕んでいる──。
フリーランス記者・松岡かすみ氏が、卵子凍結を選択する女性たちの背景や医療現場のリアルに迫った『-196℃の願い 卵子凍結を選んだ女性たち』(朝日新聞出版)より、卵子凍結の現状についてお届けする。(同書より一部抜粋して再構成)【全4回の第1回】
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卵子凍結は、将来の妊娠するチャンスを残すことにはなるが、母体の高齢出産に伴うリスクはかわらない。実際、凍結卵子の保管は、母体のリスクとしてのリミットとされる45歳を区切りとして考えられることが多い。
不妊治療クリニック「はらメディカルクリニック」では、2024年11月末時点での凍結卵子の使用率は1割弱。「助成金の運用によって母数が増えることで、今後使う人がもう少し増えてくるかもしれない」(宮崎薫院長)とし、凍結卵子の使用率は今後10年で、10~12%程度になるのではないかと予想している。
2007年と国内ではかなり早い時期から社会的適応の卵子凍結を始めたオーク会も、凍結卵子を使った例は1割未満だ。
ただし、「凍結卵子を使っていない人=出産していない人」ではない。凍結卵子を使わずに、妊娠を計画した時点での自分の卵子で出産している人もおり、使う割合が低い=凍結の意味がないとは一概には言い切れない。卵子凍結後に自然妊娠したり、その時点での卵子を使って妊娠が成立すれば、凍結卵子を使わないで済む場合も十分にある。
都の助成事業で、卵子凍結を検討中の女性に向けて、基礎知識を説明する役割を担う東邦大学医学部産科婦人科学講座の片桐由起子教授も、「いつ使うのか、卵子凍結はその後の計画もセットで考えることが必要」と強調する。
「例えばキャリアを優先してきた人が責任ある立場になってから子どもを持つ場合、仕事上での要解決事項はクリアできるのかどうか。妊娠や出産がゴールではなく、そこから始まる子育ても含めて計画することを提案したいと思います」(片桐教授)