『-196℃の願い 卵子凍結を選んだ女性たち』(朝日新聞出版)
日本がひた隠しにする「妊娠の経過」
日本ではなぜか「妊娠の経過は取り扱わないものとする」という教育方針によって、性交渉は今も、教育の現場ではベールに包まれている。ゆえに正しい知識をどこで得たら良いのか分からず、青年誌などの過激な性描写をスタンダードとして認識したり、「女性はみんな最初の性行為で処女膜が破れる」といった、誤った“神話”が、まことしやかに語り継がれたりもする。
だが本当に必要な教育は、理想のライフプランを実現するために、いつ、どのように性交渉をすることで、安心で確実な妊娠に結びつく可能性を高められるのかということではないだろうか。不妊に悩む人が増えているのは、この根本的に大切な情報を教えられてこなかったためとも言えるのではないか。
不妊治療を経て子どもを授かった女性たちからは、「子ども世代に、同じような経験をして欲しくないから、親の私が不妊や卵子の老化について話すつもり」という声が少なからず聞かれる。また、不妊治療を専門とする医師たちからも、「自分の子どもには、卵子の老化やタイムリミットについて、しっかり話すようにしている」という声が聞かれた。これは日々、不妊に悩む数多くの患者に接する中で、肌身で感じてきた実感があってのことなのだろう。東邦大学医学部産科婦人科学講座の片桐由起子教授も、現在20代の2人の娘に対し、「子どもを産むにはふさわしい時期がある」ということを日常的に話しているという。
妊娠のプロセス、卵子の老化、不妊、タイムリミット──。本来これらは、いざ知識が必要になった時、もっと言えば事態が差し迫ってから、個人が調べないと入ってこない情報であってはならないはずだ。男女ともに、若い頃から当たり前に学ぶ基礎的な知識として、義務教育の過程で教えるべきものではないだろうか。
これは少子化対策に多額の税金を投じる前に、改善すべき点だと思う。そして望む妊娠を得るための情報は、望まない妊娠を避けるのと同じぐらい、大切にされるべきものであるはずだ。知った上で選ぶのか、知らないうちに選択肢がなくなっているかの違いは、あまりに大きい。
(第3回に続く)