不妊治療で子供を授かる夫婦は珍しくない(写真:イメージマート)
「約10人に1人が不妊治療ベイビー」──日本産科婦人科学会によると、2022年の体外受精児は7万7206人と過去最多を更新。同年の日本の出生数は77万759人であるため、体外受精での誕生した子どもは約10人に1人だ。
しかしながら、「『不妊治療をして子どもが産まれたってことは、できるだけ人に知られたくない』という声が上がっている」というのは、フリーランス記者・松岡かすみ氏だ。これだけ不妊治療が一般的になってなお、ネガティブな空気感があるのはなぜだろう。
松岡氏の著書『-196℃の願い 卵子凍結を選んだ女性たち』(朝日新聞出版)より、不妊治療に抵抗感を持つ理由についてお届けする。(同書より一部抜粋して再構成)【全4回の第3回。第2回を読む】
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「卵子凍結したっていうと、老若男女問わず、本当にリアクションが大きくて。その反応を見て、ことの大きさに気がついた感じ。そんなにみんなが食いつく話題なんだと思いました」
3年前に卵子凍結をした、ある30代女性はこう話す。卵子凍結したあと、周囲にその経験を話すと、男女や年齢を問わず、高い関心を持って聞いてくれる人が予想以上に多いという。自分では卵子凍結を、そこまで大きな決断と捉えていなかったため、周囲の反応を見ると「そんなに大層なことなのか?」と疑問に思ってしまう自分もいるという。
裏を返せば、それだけオープンに話す人が少ない話題とも言えるかもしれない。女性は、「出産に対する厳しい目線や、“産みたい”とは気軽に言えない空気感を、社会に感じる」とも話した。
産みたいとは気軽に言えない空気。この言葉を聞いて、卵子凍結や不妊治療の取材を通じて出会った、何人もの女性が思い浮かんだ。不妊治療について悩んでいても、人に相談しづらかったり、産みたいのに産めないことを恥のように思ってしまっている人というのは、想像以上に多いのではないかと思う。
「不妊治療を知られたくない」葛藤する女性たち
「不妊治療をして子どもが産まれたってことは、できるだけ人に知られたくない」というのは、不妊治療を経て出産した何人かの女性から聞かれた言葉だ。自然妊娠した人に劣等感を抱いたり、なぜ自分は妊娠に治療が必要なのかと自己嫌悪に陥ったり。「治療をしないと妊娠できない=自分が生物として、致命的な欠陥があるのと同じような気がする」と話した人もいた。
不妊治療をして子どもを産んだことを伏せたい理由として、「生まれてきた子どもに対して、何かマイナスな影響が出るのが怖いから」という理由も聞かれた。つまり、自分の子どもが他人から“不妊治療をして産まれた子”として見られることで、子どもに何か不利益が出ないかを危惧しているという。
「例えば、子どもに発達障害があったとして、その子が不妊治療をして生まれたと知られたら、どこかで“ああ、やっぱり治療の影響が出るのか”って思う人っていると思う」と話した30代前半の女性もいた。