例えば西荻窪の元〈青線〉だった一帯では若い人たちが小さな店を始めていて、彼らなりの表現を創出しながら、根底に記憶の蓄積や“場に対する敬意”を感じさせる。被災地でも過去が洗い流された街にどう未来を築けばいいか頭を悩ませていますが、人間性が駆逐されない街を今後どう新しく作っていくかは日本全体が直面する課題だと思う」
オルデンバーグにしても過去を美化しすぎる傾向はあると言い、ノスタルジーほど実は厄介なものもない。
「その悪しき例が妙にウソ臭い〈昭和レトロ居酒屋〉で、安易なノスタルジーに陥らずに残すべきものを残すには、若い人が何か始めるのが一番の解毒剤なんです。その際、個人が作り出す場の可能性を私はもっと信じていいと思う。面白いオヤジが地元に1人いることで若い世代が戻ってきた例もあるし、個人の力を、個人が侮ってどうするんだと。
便利さを有難がり、文化が失われるのをただ見ているのは、資本主義に対する個人の敗北だと私は思う。このまま負けるか、路地で一杯やって一矢報いるか、そんなことを考えつつ結局は呑むんですけど(笑い)」
そう、これは個人の戦いなのだと勇気づけられるもよし。第三の場の社会的意義について考察を深めるもよし。とにかく街へ呑みに行き、冒険しないことには何も始まらないのである。
【著者プロフィール】
マイク・モラスキー(Michael Molasky):1956年米セントルイス市生まれ。1976年早稲田大学に留学し、日本滞在歴は延べ20年。シカゴ大学大学院東アジア言語文明学研究科博士課程修了、日本文学で博士号。ミネソタ大、一橋大学教授を歴任し、昨秋より早稲田大学国際学術院教授。専門は近現代文学及び戦後史で、著書に『戦後日本のジャズ文化』(サントリー学芸賞)『ジャズ喫茶論』『ひとり歩き』等。家では呑まない街呑み派。178cm、75kg、B型。
(構成/橋本紀子)
※週刊ポスト2014年5月2日号