ライフ

【著者に訊け】アメリカ人教授が著した『日本の居酒屋文化』

【著者に訊け】マイク・モラスキー氏/『日本の居酒屋文化 赤提灯の魅力を探る』/光文社新書/780円+税

 家庭が第一の場、職場が第二の場なら、そのどちらでもないからこそ足が向く居酒屋は〈第三の場〉――?

 別に「まっすぐ帰りたくない症候群」の弁解ではない。マイク・モラスキー著『日本の居酒屋文化』にも書いてある、れっきとした社会学的概念だ。我々酒呑みが〈赤提灯〉に吸い寄せられる理由に学術的解明を試みる著者は、早大教授にしてジャズピアニスト。2012年刊行の『呑めば、都』では東京中の酒場をハシゴしてみせた居酒屋通でもある。

 本書ではさらに地方へも対象を広げ、巻末には自らの足で探した名店がずらり。ネット等に頼らない穴場の見極め方も披露され、酒場好きには嬉しい限りだ。

 それでいて本書はよくあるガイド本とは一線を画し、居酒屋の歴史的・社会的な役割に関して多くの知的発見に富む。そもそも街歩きとは氏にとって「大げさに言えば日常からの逸脱」を意味し、「ちょっとした好奇心と冒険心」が生きている実感を与えてくれるという。

 初来日は1976年。以来延べ20年に及ぶ日本での生活が葛飾区お花茶屋で始まったことは、今思えば縁という他ない。同地は酒呑み垂涎の地・立石の、すぐ隣町だ。モラスキー氏はこう語る。

「まだ日本語もうまく話せなかった私がピアノの弾ける下宿先を探していた時、選択肢は2つありました。1つは英語が堪能なご夫婦が住む山の手の家、もう1つは4世帯が同居し、ガソリンスタンドを経営している葛飾の9人家族の家。私は当然ラクじゃない方を選びたがる(笑い)。

 人は幸運を、ある程度自分で作り出す部分があるんです。例えばメニューが写真付きで明記された表通りの店は安全でラクな分、驚きも感動もない。かたや怖々迷い込む路地には思わぬ出会いや発見があるから、失敗しても楽しいんです」

 一口に居酒屋と言っても立ち呑みから割烹まで幅広く、見方次第では蕎麦屋や大衆食堂も日中から〈呑める店〉という顔を持つ点が、日本の面白さだと氏は言う。

「もともと蕎麦屋や寿司屋などは江戸時代の〈屋台〉に原型があり、日本の飲食文化の特徴にまず〈細分化〉がある。皆さんは当たり前過ぎて意識しませんけど、喫茶店にタンゴ喫茶やジャズ喫茶があったり、呑み屋の種類がここまで分かれている国も実は珍しいんです。

 本書ではそうした呑める店の分類から始めていますが、私としてはそれぞれに楽しみ方があることを認識(意識)してもらいたかった。高級割烹と赤提灯では出てくる酒肴も違って当然で、その店なりの良さを味わう多様な観点を持つほど、我々呑べえの楽しみも増える!(笑い)」

関連記事

トピックス

天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン