そして2012年8月、有志の10店が共同出資する「多摩川の本屋たち」を出版元に、全国約400店舗に本が並ぶ。この試みが新聞等で紹介されたこともあり、初版3000部は5か月で完売。即3000部を重版した。
「それまでは家で1冊1冊、手作りで納品するしかなく、自分が何屋なのか、わからなくなった時期も正直ある。でもそれこそ辞表を受理してくれない会社というか、自分を超えた〈ある意志〉に取り憑かれたとしか言いようがないですね。何しろローラの話が他界した彼女の話に繋がるなんて、僕もこれを書くまでは考えもしなかったんですから」
さて、子猫の話に戻ろう。まだ排泄もできない彼らはこのままでは死んでしまうと僕と妻は心を痛め、かといって賃貸では飼うこともできない。それは段ボールに群がる近所の猫好き〈スパッツおばさん〉たちも同じことで、人にはみな何かしら事情があるのだ。
そこに通りがかったのがローラだ。自身の兄弟猫と土手沿いの工場に棲みつき、エムちゃんを育てる彼女は、確か先週2度目の出産をしたはず。〈そうだ、ローラに育ててもらえばいいんだ〉
僕や川原を通りがかった幼い兄妹は〈ローラ、お願いだ、子猫達を助けてくれ〉と頭を下げ、するとローラは子猫を1匹、また1匹と連れ帰り、赤の他人の母親になってくれたのである。
「実は執筆に挫けかけた時、僕の背中を押したのが2006年の秋田児童連続殺害事件で、我が子を橋から突き落とし殺害する母親もいれば、親のいない子猫を育てる母猫もいる。僕は断然、後者に心を揺さぶられるんです。
本書には僕の青春時代の話も書きましたが、成功を夢見て上京した元ロック青年も、この歳になると自分にも世間にも正直白けていた。それがローラと出会い、あの奇蹟と遭遇したことで、何かが覚醒したんですね。自分もロックな魂を忘れず、再び転がり続けようって」