現代のインフラとも呼ばれる宅配便ビジネス。その最大手であるヤマトHDに、全く違った角度から光を当てた2冊のノンフィクション作品『小倉昌男 祈りと経営』(森健・著、小学館ノンフィクション大賞受賞作)と『仁義なき宅配』(横田増生・著)。話題書の著者2人による異色対談の第2回は、宅配業界のタブーに迫る取材手法に話題が及んだ。(全3回中、第2回)
──横田さんのご著書では、ヤマトの巨大物流ターミナル「羽田クロノゲート」への潜入取材を敢行されています。そうした取材手法が必要になる、つまり物流業界、宅配業界は秘密主義が強いという印象を受けました。
森:僕はそもそも物流業界に詳しいわけではないのですが、横田さんのご著書にもあったように、本当に語られていないことが多い業界だと思いました。
横田:物流業界は「お客様(荷主)のことは話せません」というのが鉄則なので、業績の根幹であるはずの運賃のことを尋ねたとしても、そのお金がどこから入ってきたのかは絶対に教えてくれません。
森:それは昔からですか?
横田:そうです。物流業界紙が書いてはいけないのは「荷主の名前」と「運賃」のことです。宅配便は料金が公になっていますが、たとえば、企業から受けた荷物の東京―大阪の幹線輸送の運賃を業界紙に書いたりとすると、いろんなところからクレームが入りました。
私が物流業界紙『輸送経済』の編集長をしていたときには、「君は『水は低きに流れる』って知っているかね? 業界紙に東京―大阪の運賃を7万円と書かれたら、それより高い運賃をいただいている荷主さんから、値下げの話が来るんだよ。だから、運賃のことは書いてもらっては困るんだよ」というクレームを受けました。
森:そこで横田さんにお伺いしたいのですが、横田さんの『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』でもそうでしたが、ここまで秘密が多い業界なので、『仁義なき宅配』も最初から「潜入取材」という方法を念頭に置いて企画を立てられたのでしょうか? それとも、取材をしていくうちに、潜入取材をやらざるを得ないということになったのでしょうか?