横田:それは、初出掲載誌である『SAPIO』の担当編集者に原因があるんですよ(笑い)。ヤマト運輸も佐川急便も、正面からの取材を断られたので、担当編集者に「ここまで断られたら何も取材できないので違うテーマに変えませんか?」と提案したら、「ダメです、このテーマでやります」と。でも、宅配便で働くドライバーを何十人と取材したところで、数万人の中の一部の話でしかない。
そこで、宅配便の仕分け拠点(ベース)であれば潜入取材ができるということに気がついたんです。だから担当編集者がテーマを変えてくれたら、あんな辛い思いはしなくてもよかった(笑い)。
森:その後、体調を壊されたという記述を読んで、本当に大変な取材だと思いました。
横田:宅配便は深夜労働がなくては回らないので、その現場に潜入しないと意味がないと思ったのですが、その結果、睡眠障害になりました。
森:鎌田慧さんの『自動車絶望工場』(1973年)の系譜である潜入取材という手法は、最近、あまりやる人がいませんが、今日のノンフィクションを考える上で、見直されるべき手法だと思いました。現場に飛び込んでいく取材というのでしょうか、本当は、僕らよりも若い世代の書き手に挑戦してほしい取材方法です。
横田:当初は簡単に取材を受けてくれるものだと思っていました。僕がヤマトに取材を申し込んだのは2014年の初頭でしたが、クール宅急便に関する不祥事(全国約200か所の営業所で温度管理ルールが守られていなかった。2013年10月に発覚)の後だったので、「まだ禊(みそぎ)が終わっていないので、あと1年くらいは取材を受けられません」と断られました。
森:僕も同じような理由で取材を断られました。
横田:それなのに、日本経済新聞の取材には答えている(笑い)。取材を申し込んだ当日の日経新聞には、宅急便の値上げの記事が1面トップに載っている。そのことをヤマトの広報に指摘したら、「これは日経が勝手に取材して書いたんだ」と。しかし、その翌日の日経新聞を見たら、当時ヤマト運輸の社長だった山内雅喜さんのインタビューが載っていた……。まあ、誰の取材を受けるかどうかは、向こうの都合ですからしょうがない。ただ、潜入取材をしたからこそ、その後、ヤマトの広報も公式な取材を受けてくれたんだと思います。