また、第2話以降のセミレギュラーで、光圀に先んじた豊臣寄りの国史編纂を目論む真田家の末裔〈月読姫〉や美貌のくノ一軍団と、お吟たちが対決するアクションシーンも、自身、山田風太郎ファンを公言するだけに見物。さらに最終話では遠州を二分する学閥の子女〈門田露水鴎(ろみおう)〉と〈珠里(じゅり)〉の恋を黄門様が助太刀するなど、シェークスピアであれ何であれ、面白いものには目がない月村氏なのだ。
「もちろん各話ともその事件を通じて登場人物がどう成長するかというドラマを軸に組み立てるんですが、どうせならくノ一がずらっと並ぶ方が華やかですしね。
それこそ昔の東映時代劇にはレビューの要素もあったと思うし、中学時代は北杜夫や小林信彦やモリエールを読み、高校生の時にバスター・キートンのサイレント喜劇にとどめを刺された私には、あの手この手で楽しませるエンタメ構造が刷り込まれているんだと思う。ムダに読み散らかしてきた年月が、ここにきて生きてきたんですかね(笑い)」
文体も正統派時代小説に則り、「あえて滑稽な喜劇をやる」作家の覚悟が、時代の閉塞感に発していることはこの際忘れよう。読む者はただ笑いあり涙あり、各宿場の名物や〈一件落着〉のカタルシスまである痛快な世界に遊び、明日への英気を養うのが唯一の作法なのだから。
【プロフィール】つきむら・りょうえ/1963年大阪生まれ。早稲田大学第一文学部文芸学科卒。2010年『機龍警察』で小説家デビュー。2012年『機龍警察 自爆条項』で第33回日本SF大賞、2013年『機龍警察 暗黒市場』で第34回吉川英治文学新人賞、2015年『コルトM1851残月』で第17回大藪春彦賞、『土漠の花』で第68回日本推理作家協会賞を受賞。他に『神子上典膳』『槐』『影の中の影』『ガンルージュ』等、ジャンルを超えた作品を続々発表。176cm、62kg、A型。
■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光
※週刊ポスト2016年9月9日号