強権的な父親が後継者に求めたのは「無敵の男(キラー)」になることだった。何事にも動じることなく、どんなときにも負けない男。弱さこそ最大の罪と考える父は、息子が自分のようになることを望んでいた。
しかし、フレディの性格は正反対のものだった。ユーモアがあり、楽しいことが大好き。だが、友達と楽しく遊んでいると、父には「軟弱者」と罵られる。「馬鹿じゃないのか」「そんなことをして何になるんだ」という父の軽蔑した言葉を受けるたび、フレディは自尊心を傷つけられていった。そうして父から見放されるようになった兄を、ドナルドはじっくりと観察していた。そこから得た教訓を、メアリーはこう記している。
《フレディのようになってはいけない。(中略)父さんはフレディが弱虫だと思っている、だからぼくもそう思うことにする》
《父さんはフレディ兄さんをいじめているんじゃない。りっぱな男になれるよう指導しているんだ。フレディはちゃんとできないだけなんだ》
兄のようにならないためには「無敵の男」になる必要がある。そう考えたドナルドは、自分を大きく見せるために嘘をつき、ほかの子供たちに攻撃的な行動をするようになる。父から見放されないためにも、「父の歪んだ価値観」をトレースするようになっていった。
「フレッドは、そうしたドナルドの自己防御意識を、タフネス(精神的強靭さ)と勘違いしたのです。フレッドはドナルドを、自分の後継者に最適な“無敵の男”と見るようになっていく」
「間違いを認め、謝るというのは弱虫のすること」「冷酷であることを楽しみ、勝つためには手段を選ばない」そんな父の思考が、ドナルドの中にもインプットされていく。兄は過剰な期待を受け、過剰に自尊心を傷つけられていった。そうした父の「過剰」の影響を間接的に受け、ドナルドはソシオパス(社会病質人格障害者)としての精神を形成していく。