日本はかつて「一億総中流」の国だと誇らしげにみずからを呼んでいた。毎年、実施されている内閣府の「国民生活に関する世論調査」で、1970年以降は生活程度を「中」と答える人が9割を超えたからだ。いまも同調査で「中」と答える人は9割を記録しているが、実際には、そのなかで大きな分断がすすんでいる。俳人で著作家の日野百草氏が、今回は、新型コロナウイルスにより急転する経済状況のなかでも好調を維持する会社で、面接を担当している20代男性の「神になった気分」についてリポートする。
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「面接していると自分が神になった気がするんです」
突拍子もなく飛び出した「神」という単語。矢野史男さん(仮名・20代後半・彼女なし)は独立系IT企業の総務部に務めている。小さな会社だが都心の一等地、超高層ビルにオフィスを構え、日本を代表する情報通信会社とも大きな取引がある。小さな会社だからこその機動力で、儲かる仕事なら何でも手をつける。電子コミックやソーシャルゲームの受託業務も社長の趣味で手掛けている。社長も30代とまだ若い。
「面接は僕のストレス解消です。なるべく書類で落とさず直接会います」
このコロナ禍、雇用者数は5942万人で前年同月(2020年7月)に比べて92万人の減少、100万人近く減った。完全失業者数は197万人で6ヶ月連続の増加、つまり日本のコロナ禍の端緒でもある2月の横浜港のクルーズ船騒動からずっと失業者は増え続けている。この半年、コロナの影響による規制と自粛の積み重ねが日本の雇用を破壊し続けている。そんな中でも矢野さんの会社は雇用に意欲的な会社、さすがに儲けているなあと思ったが、それだけではないらしい。
「ウチの中途は以前から通年採用ですから、使える人材が来たら採る感じです。だから自社サイトに募集を出してるだけです」
そんな募集形態のため以前はそれほど応募がなかったそうだ。以前とはもちろんコロナ以前、少子化もあり売り手市場だった昨年度までの話である。
「私が採用を担当するようになってから徐々に応募者が増えて、いまでは追いつかない状態です。通年だしメール1本でサクッと応募できるのもあるのでしょう」
矢野さんが担当を引き継いだ今年4月、折からのコロナ禍により国の緊急事態宣言が発令され、全国に拡大した。さすがに矢野さんの会社もリモートワークとなり、一部の役員を除いて出社しなくなったが、メールそのものは自宅でチェックしていた。矢野さんの会社は小さいので総務が人事を兼ねる。人事権は最終的には社長だが、その直前までの人事に関する業務は総務の仕事である。