新型コロナウイルスの影響で失業したり収入が減った人から生活資金を借りられる「緊急小口資金」の問い合わせが急増し、専用の受付窓口を設置する社会福祉協議会も(時事通信フォト)

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必死な履歴書とかメールを読むのが、最高の娯楽

「緊急事態宣言中も応募のメールは来てました。でもさすがに面接できないからお断りのメールを返してたんです」

 サイトの文言を「現在募集していません」にするだけで済む話のような気がするが、矢野さんはあえてしなかったという。

「社長や上司にいちいち言うのも面倒でしたし、休止の指示もありませんでした。でも」

 矢野さんがクスリと笑いこぼす。

「変な話ですけど、必死な履歴書とか、採用してくださいみたいなメールを読むのが気持ちよくなっちゃったんです」

 矢野さんいわく、求職者の履歴書を読むのは最高に面白いという。私も編集長時代、たくさんの履歴書に目を通したが、人材の精査という意味以外でそんなことを考えたこともない。そもそも本業以外の人事作業は正直、校了など重なると大変だった記憶しかない。

「はい、現場の連中はそうなんですけど、私は総務で人事担当ですからね。嫌とか面倒とか言ってられません。でも全然嫌じゃないです。むしろ最高の娯楽です」

 矢野さんの腕には真新しいスイス製のダイバーウォッチが光る。特別定額給付金で買ったという。スイス製でも中堅どころのクォーツなので高級時計ではないが、ポンと買うのに給付金はちょうどいいあぶく銭だったのだろう。一方で、給付金が生活費の足しという人もいる。疫禍はほんの小さな大衆の消費生活にも分断のほころびを生んだ。趣味の腕時計なんて間違いなく求職者は買わない代物だろう。

「履歴書にびっしり書いてある志望動機とか、どうしょうもない経歴の人がバイトの職歴並べてるのとか、そんな履歴書読むの面白すぎます。コロナで失業とか無職ですからね、かわいそうですけど、楽しいです」

 そんなこと言われても正直困る。確かに雇っていただく立場の求職者である彼ら、その立場はとてつもなく弱い。だとしてもここまでもてあそばれる必要もない。しかし矢野さんは大丈夫なのかと思わされてしまうほど露骨なウッキウキ状態だ。

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