最近ぶっそうになった、治安が悪くなったというのは数字上では誤りだが、人心としては60%以上がそう思っているという先の内閣府の調査および警察白書の発表の限り誤ってはいない。重ねるが筆者も同感で、普通の人と思いきや「ヤバい人」に転じる事例は本当に多い。正義感あふれる人からは叱責されるかもしれないが、自分の身を守るためにもまったくの赤の他人とは関わらない、個人的な危険は立ち向かわずに逃げるというのが身を守る術だ(空から降ってくるコンクリやショッピングカートは防ぎようもないが……)。警察は頼りになるが、個々人の突発的な「ヤバい人」に即対処できるわけではない。
それを決して冷たいとか、人情味がないとか思わない。むしろこうした自警行為こそ、同調圧力と他者への不躾な介在こそが「ヤバい人」に変えてしまうのではないか。どんな理由があろうとも暴力は許されないが、そうした理屈の通用しない人がいるのも事実。時と場合にもよるが、それこそ大原則としてまったくの赤の他人とは「話さない、関わらない、近づかない」を徹底することもまたアフターコロナ、令和の自己防衛術のように思う。
なんだか一昔前の海外旅行のレクチャーみたいだが、それほどに至らないまでも、現代日本の治安は、安全神話は小さなところで綻びかけている。自分の身を守るためにも、くれぐれもうかつな正義感で「ヤバい人」を目覚めさせてはいけない。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。著書『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)他。