カスタマー(顧客)から受ける嫌がらせや過度なクレームであるカスタマーハラスメントを略した「カスハラ」について、小売・サービス業で働く5人に1人が受けたことがあるという調査結果がある(2020年、UAEゼンセン調査)。そのとき、従業員がつけている「名札」が悪用されることが少なくない。著作家で俳人の日野百草氏が、接客業の「名札」は果たして必要なのか、とくにアルバイト従業員は本名を示さねばならないのかについて実態と本音をレポートする。
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「店員に本名の名札って必要ですかね」
関東のスーパーマーケット、帰省ついでに旧知の男性店員と話し込むうちSNSの話になる。すると必然的に出てくるプライバシーの問題、多くの一般客は胸に店員の名前の入った名札があること、それが本名であることを当たり前のように思っているが、これが長年の接客業界の悩みのタネとなって久しい。すべての店員が本名を晒す必要はあるのか、と。
「私は必要ないと思うんですど、うちは本名なんですよ。信用がどうこうって古いんです。パートやアルバイトの女性の中には嫌がる人もいるのでなんとかしたいんですけど」
店員に名札をつけるか、それを本名にするかは業種や経営者によってまちまちだ。たとえばバスやタクシーのドライバーなどは旅客自動車運送事業運輸規則で本名表記が定められている。タクシードライバーの中には「名前を憶えてもらって指名につなげる」という人もいる。一部の宅配便はトラックの後ろに配達員の本名が記載されている。「あれが嫌だからやらない」という軽貨物の配達員もいるが、すべては法令および「信用」を重要視しているのだろう。ただ車内掲示のバスやタクシーと違い宅配便は車外掲示で街中に名前を晒しまわっているようなもの、嫌がる配達員がいる気持ちもわかる。
「似たようなものです。スーパーやコンビニのアルバイトで本名出す必要ありますかね、管理者や正社員ならともかく、名前を憶えてもらっても多くはアルバイトやパートですよ。だから責任は低いとか、それで仕事の手を抜くとかじゃないですけど、昔と違いますからね」
彼は正社員、まして管理職で名前を出すのは仕方がないと語る。現にこの店では店長や精肉、鮮魚の長は顔写真入りで店内に掲示されている。責任者であり、店の信用を考えればそれは仕方がない。しかし、アルバイトやパートまで本名を晒すというのはどうだろうか。この店では早朝や深夜の品出しのみの時短勤務のアルバイトまで、簡易な手書きとはいえ本名でなければならないという。とくに地方にこうした店は多いが、その意味は果たしてあるのか。