1979年、阪急が優勝を決めた試合でホームランを放った加藤。観客がグラウンドに乱入するほどの熱狂を巻き起こしたが、三冠王にはあと一歩届かなかった(時事通信フォト)

1979年、阪急が優勝を決めた試合でホームランを放った加藤。観客がグラウンドに乱入するほどの熱狂を巻き起こしたが、三冠王にはあと一歩届かなかった(時事通信フォト)

普通は歩かせるやろ……

 勝負を避けることで生まれるドラマもあれば、勝負したことでのドラマもある。1979年の加藤英司(阪急)。加藤は新井宏昌(南海)、白仁天(ロッテ)と首位打者を激しく争い、最終的には2位の新井に6分の差をつけタイトルを獲得。打点もチームメイトの島谷金二と2点差をつけて加藤がタイトルを手にした。問題は本塁打だった。当時はマニエル(近鉄)、マルカーノ(阪急)、栗橋茂(近鉄)、土井正博(西武)、レオン(ロッテ)などの長距離バッターが揃っており、タイトル争いで最終的に絞られたのはマニエルと加藤だった。

 残り試合17の時点で加藤は30号を放ち、マニエルに並んだ。その後、マニエルが2本、加藤が1本打ち、1本差で阪急と近鉄の直接対決(9月24日)の日を迎えた。阪急にはすでに優勝マジックが出ており、優勝は堅いとみられていた。この試合は8回まで0対3で近鉄がリードしており、4打席目のマニエルに対し、阪急のマウンドは今井雄太郎。

「1本差で迎えた直接対決。誰もが勝負を避けると思っていたが、今井はマニエルと真っ向勝負。マニエルは今井の球をライトスタンドに放り込んだ。これで33本と31本の2本差となり、加藤は力が尽きた。試合後に加藤が“消化ゲームでっせ、普通は歩かせるやろ”とボヤいたのをよく覚えている」(当時の阪急担当だった元スポーツ紙記者)

 それでも阪急が後期の優勝を決めた試合(10月5日)で加藤はマニエルと並ぶ35号を放って意地を見せたが、マニエルが西武戦と南海戦に36号、37号を放ってタイトルを獲得。加藤は三冠王を逃した。

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