寄生する病害虫が国内へ入り込むことを防ぐため、検疫のための処理をしていない野菜や果物、肉類の多くは持ち込み禁止とされており、国際空港の検疫カウンターでそれらが没収されていることはよく知られているだろう。だが、それでも海外との行き来が盛んになると病害虫が持ち込まれる。そのうちのひとつが、衛生環境の改善と殺虫剤により日本では生息が激減していたトコジラミだ。俳人で著作家の日野百草氏が、古くて新しいトコジラミと、さらに進化した「スーパートコジラミ」の被害についてレポートする。
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「引っ越しました。確かに古いマンションでしたが、まさかあんなのがいるなんて思ってもみませんでした。前もって知識があったら確認したのに、残念です」
30代のサラリーマン男性、少し古いが立地の良い賃貸マンションで新しい暮らしを始めるはずが、そこには最悪の「先住者」がいた。
「トコジラミです。いまも刺されたところが痒くて、もう半年も苦しんでます。しつこいし、本当に怖い虫です」
先住者とはトコジラミ。別名、南京虫という吸血性の昆虫である。東京都保健局のパンフレットによれば、
〈トコジラミとは?
大きさ: 5mm~8mm(成虫)
体 型: 丸く、扁平でとても薄い
色 : 褐色
* 夜、部屋の隙間等から出てきて活動します。
* 人や動物の血液だけをエサとして生活し、吸血しなくても長期間生きることができます。
* 成虫は、3~4か月生きています。〉
とのことで、海外に出かける機会の多い方にはお馴染みの虫だろう。シラミとつくがシラミではなくカメムシに近い。刺される(吸血される)と彼のように猛烈な痒みに襲われる。繁殖力も生命力も強く、絶食状態でも2ヶ月とか平気で生きる上に大量の1mmくらいの卵を産み続ける。東京都保健局によればメスの産卵は生涯で500個にも及ぶ。1匹でもいたら、放置したなら、その部屋はいずれトコジラミに占拠されると考えていいだろう。トコジラミの東京都への相談は 2005年にわずか26件だったものが2018年には354件と13倍以上の増加となっている。原因はインバウンド、多くの訪日外国人や邦人帰国者によって持ち込まれたと各保健所でも報告がなされている。