ミサイル発射を繰り返す北朝鮮。世界から孤立し、いまだに多くの謎に包まれる国だが、その実態を脱北者自らが語るYouTubeが人気だ。脱北者は隠れて生きる人も少なくなく、彼も一度は脱北に失敗し、凄惨な想いを経験している。なぜ彼は危険を冒してまで配信を続けるのか。フリーライターの平尾類氏が、その素顔に迫った。
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北朝鮮で生まれ育ち、命がけで脱北したキム・ヨセフさん(38)は日本に移住して10年が経つ。2008年に脱北後は韓国で4年間過ごし、語学留学で日本へやってきたのが28歳の時。日本語学校で1年半学んだ後に、埼玉県にある私立大の政治経済学科に進学した。卒業後は日本で会社員として勤務する傍ら、YouTubeチャンネル『脱北者が語る北朝鮮』で自身の体験談に基づいた北朝鮮の情報を配信している。「なぜ北朝鮮ではクーデターが起きないのか」から「ホテルがない北朝鮮で男女はどうするのか」といった硬軟織り交ぜた企画で着実に登録者数を増やし、今年2月には千原ジュニアともコラボをしている。
脱北者の支援・サポートが充実している韓国に戻る選択肢もあった。北朝鮮と同じハングル語を使うため、生活にもなじみやすい。その中でなぜ、日本に住み続ける人生を選択したのか。
「日本人は真面目です。メイド・イン・ジャパンの製品が世界トップの品質として、世界中に認められている。真面目さ、物づくりのこだわりがあってこそ生まれる品質だと思います。私は朝鮮半島で生まれましたが、日本人が相手の心を察する気持ち、相手に対する気遣いが好きです。礼儀正しくて、迷惑を掛けない。ゴミを必ず持って帰ることもそうです。自分に非があるならば、年上の人が若い人にも謝る。これはほかの国ではなかなか見られません。尊敬していますし、それが日本で長年住み続ける理由です」
キムさんは韓国のドラマ『愛の不時着』が大ヒットしたことで、視聴者が北朝鮮に持つイメージが現実と乖離していることに危機感を覚え、YouTubeで北朝鮮の情報を配信することを決断した。だが、素顔を公開し、時には北朝鮮の政権を批判する内容の動画を配信することは身に危険が及ぶ恐れがある。躊躇はしなかったのだろうか。
「北朝鮮出身であることを言わず、静かに暮らしたほうが確かに安全です。でも、自分が色々な経験をして、何かを恐れて言えないのであれば、表現の自由が保障されている国に来た意味があるのかと考えてしまいます。リスクはあるけど、迷惑を掛けない限り、自分らしく生きたいです」