約1000種類、100兆個──これは、ヒトの大腸に棲みついている腸内細菌の数だ。とりどりの菌が無数に共生している様子を花畑になぞらえて「腸内フローラ」とも呼ばれる。
だが、その“花畑”の中には、私たちを太らせる“デブ菌”がひそんでいることを、ご存じだろうか。これまで9000人以上の腸内環境を調べてきた医薬基盤・健康・栄養研究所ヘルス・メディカル微生物研究センター長の國澤純さんが語る。
「ヒトの腸内細菌の種類は大きく分けて『ファーミキューテス門』『バクテロイデス門』『プロテオバクテリア門』『アクチノバクテリア門』の4つに分類されます。『門』とは、界・門・綱・目・科・属・種という7つの生物学的な分類の中で、2番目に大きな分類のことです」
例えばヒトは動物「界」の脊索動物「門」、哺乳「綱」、霊長「目」、ヒト「科」、ヒト「属」、サピエンス「種」。これだけでも「門」がいかに大きなくくりかわかるだろう。
このうち特にファーミキューテス門には“デブ菌”が多く、バクテロイデス門には“ヤセ菌”が多いことが明らかになってきた。
「日和見菌」こそがダイエットのカギ
簡単に言えば、“デブ菌”は「悪玉菌」のことで、“ヤセ菌”は「善玉菌」だ。そして、その時々で悪玉にも善玉にも変わる菌を「日和見菌」という。犀星の杜クリニック六本木院長で消化器専門医の川本徹さんが解説する。
「腸内フローラを構成する細菌は、大きくこの3つに分けられます。日和見菌は、そのときの腸内環境によってヤセ菌になることもあれば、デブ菌にもなります。最近では、日和見菌の中でも善玉菌になりやすい菌や、悪玉菌になりやすい菌など、いろいろなタイプがあることがわかってきています」
例えば、ファーミキューテス門に属する日和見菌は、食生活次第で、デブ菌として働くことがある。
「ファーミキューテス門の菌は欧米人の腸に多く、本来は体に悪さをする菌ではありませんが、これらは主に脂質を“えさ”にして増殖するうえ、それを分解する際に生成される代謝産物は高カロリーで、肥満の原因になる。つまり、脂質の多い食事を摂るほど、デブ菌は増え、活性化するのです」(川本さん)
一方、ヤセ菌は、主に食物繊維をえさにして、ダイエットに役立つ短鎖脂肪酸と呼ばれる物質をつくり出す。
「短鎖脂肪酸とは、酢酸や酪酸、プロピオン酸といった有機酸のこと。これらには腸の働きを活発にして代謝を促進したり、脂肪の蓄積を抑えたりする働きがあるのです。短鎖脂肪酸をつくるヤセ菌は、酪酸をつくる『クロストリジウム・ブチリカム』や、たんぱく質や炭水化物を分解する酵素を持つ『枯草菌』、そして整腸作用で知られる『ビフィズス菌』などが代表的です」(國澤さん)